第3話 鉄研クイズをクリアせよ!
次から次へと鉄道クイズ攻撃を仕掛ける鉄研部長。くう子と強は、なす術もなくやられてしまうのか?
部長は喜びの表情を隠しながらくう子に言う。
「早速じゃが、くう子ちゃんの鉄道の知識を試したいのじゃが」
「何でも訊いて!」
「くう子って鉄道マニアだったのか。知らなかった」
と兼尾が言う。
「山手線の駅名を知ってるだけ言うてみい」
「あ、あたし茨城県ちゅくば市民だから都会の事はちょっと……」
「ワシもちゅくば市民じゃ。少しでいいぞ」
くう子は真剣な表情で考え込む。
「……東京」
「いいぞ、次」
「か、神奈川?」
「鉄拳制裁!」
部長はくう子に強烈なアッパーカットを浴びせる。彼女は吹っ飛ぶ。
「くう子!」
かかと落としを喰らって倒れている兼尾貢が虚しく声をあげる。
「神奈川なんて駅は国鉄には無いわい!」
「部長、今は国鉄じゃなくてJRです。ちなみに東神奈川駅ならJRにはあります。神奈川駅は私鉄の京浜急行の駅です。各駅停車しか停まりませんが……って誰も聞いちゃいないか」
と部員がやや悲しそうに呟くが部長は案の定聞いてはいない。
「くう子よ、そこは神奈川駅じゃなくてせめて横浜駅じゃろうが!」
殴られたくう子はほぼ無傷でけろっとしている。
「じゃあ横浜駅」
「馬鹿者!」
部長のアッパーカットに再びくう子は吹っ飛ぶ。
「山手線は一周四十キロ、東京-横浜間はほぼ直線で三十キロある。ワシの言っている意味が分かるか?」
「理屈っぽい老人は女の子にモテませんよ」
「直線で三十キロあったら一周四十キロの環状線にならんじゃろうが!」
くう子再び吹っ飛ぶ。彼女は相変わらずけろっとして手のひらを部長に見せる。
「あたし感情線は普通なんだけど、生命線は結構長いんですよ。見て下さい」
部員はくう子の発言にあきれる。
「部長、くう子ちゃんは環状線の意味を理解していないみたいです」
「これは鍛え甲斐のある新入部員じゃわい」
「ところで部長、山手線の話題は関西の読者には分かりにくかったのではないでしょうか?」
「そうかもしれんな。ではくう子にもう一つ質問じゃ」
「何でも訊いて!」
明るく元気一杯に答えるくう子に兼尾貢は唖然としている。
「大阪環状線の駅名を知ってるだけ言うてみい」
「大阪環状線ってバス路線ですか?」
「馬鹿者、駅名と言ったじゃろうが!」
くう子再び吹っ飛ぶ。そのすぐ後、けろっとして、
「大阪」
と言う。
「いいぞ。後はUSJに行く時に通った駅を言えばオッケーじゃ」
「うーん、兵庫?」
くう子再び吹っ飛ぶ。
「そこはせめて神戸じゃろうが!」
「じゃあ神戸」
「同じトラップに引っかかりおって……」
部長のアッパーカットが出る前に部員が口を挟む。
「部長、大阪-神戸間はほぼ直線で三十キロ。東京-横浜間とほぼ同じ距離です。くう子ちゃんは山手線に横浜駅が無い事を、大阪環状線に神戸駅が無い事を例にする事により、関西の人に分かりやすく我々に示そうとしたのではないでしょうか?」
「なるほど。我々はとんでもない秘密兵器の新入部員を入れてしまった訳じゃな」
「あたしUSJに行こうとすると、目の前の『たこ焼きミュージアム』に阻まれて脱出不可能になっちゃうんですよ」
くう子の脈絡のない言葉に、部員が呟く。
「それが大阪環状線の駅名を答えられない事とどんな関係があるんだろう……って誰も聞いちゃいないか」
チョコの連絡を受けたくのいちこと久野一恵とケンカ十段剛力強が鉄道研究会の部室の前に到着する。
強がドアをノックして呼びかける。
「宅配便でーす」
「はい、お世話様です。こんなご時世ですので置き配でお願いします」
と室内から例の気の弱そうな部員の声。
「了解しましたー」
隣にいるくのいちが強に肘鉄を入れる。
「了解してどうするの。中に入れないでしょ!」
「鍵がかかってるよな」
「そうよ。別の手を考えなさい」
強が再びノックする。
「すいませーん、入部希望の者なんですけどー」
今度は室内から部長の声がする。
「入部希望の男子生徒じゃな。それでは入部テストに答えてみよ」
「何でも訊いて下さーい」
「えっ、強って鉄道マニアなの?」
「JR北海道るもい本線の駅名を二十秒以内に全て答えてみよ」
「うーん……さ、札幌?」
「若造、出直して来るがよい」
くのいちが強の頭をチョップする。
「全然ダメじゃない!」
「(頭にタンコブを作り涙を流しながら)北海道って札幌駅以外は全部バス停じゃないのかよぅ」
鉄研の部室内。部長と気の弱そうな部員、兼尾貢とカノジョの沢山くう子の四人が今のやりとりを聞いている。
「入部試験がちと難し過ぎたかのう」
部員の瞳がキランと輝く。
「深川、北いちやん、ちっぷべつ、北ちっぷべつ、石狩沼田……って誰も聞いちゃいないか」




