第29話 強、渾身のおめかし
くのいちの化粧は全く問題は指摘されなかった。これはいける! 強よ、後に続くのだ!
校長室の隠しカメラの映像。大きな机を前に座っている校長に向かい合って立つ剛力強。学生帽を目深に被っていて、顔がよく見えない。
「校長先生、おはようございます。今日は先生に折行ってお話があるのですが」
「ほう、何だね剛力君?」
強、先程のくのいち同様、腰を机の上に乗せ、校長に近づく。
「今日の俺、どうすか?」
強はワイシャツと帽子を脱ぐ。濃いアイシャドー、つけまつげ、アイライン、真っ赤な口紅をつけている。眉も太く書き足されている。胸には怪しげなボディーペイント。
校長の顔が怒りに満ちる。
「何ふざけてんだ貴様―!」
「グホッ!」
校長、強を殴る。強は吹っ飛ぶ。強は起き上がり、顔を校長に近づける。
「よく見て下さい、校長。俺のどこに問題があるんすか?」
「全てだ! す べ て! 貴様退学になりたいのかー!」
「この肌にも問題があると?」
「そうだな。なんか白過ぎないか、お前の肌」
「校長先生なら気に入ってくれると思ったのに。これだけおめかしするのにどれだけ苦労したと思っているんですか!」
「逆ギレしてんじゃねー! 潰すぞ貴様!」
校長、もう一度強を吹っ飛ばす。強は女々しく『あはん』と声をあげる。
裏アカウントの画面が切り替わり、先程の化粧を施した強の顔のアップが映し出される。つけまつげ、アイシャドー、アイペンシル、口紅、眉、と各部位に説明が書き込まれている。チョコが解説する。
「ご覧いただけましたでしょうか。やはりつけまつげ、アイシャドー、アイペンシル、濃い目のリップはダメみたいです。眉も極端な書き足しはいけません。彼にはK化粧品の B Bクリームを塗っておいたのですが、『肌が白過ぎる』との指摘を受けました。やはり魚池ラボの B Bクリームの方が安全みたいです……あっ、そろそろお別れの時間が近付いてきました」
ミルクがそれに呼応してカメラに向かって語りかける。
「次回は〜学校メイク最大の難所〜『アイプチで二重まぶたにへんし〜ん!』をお送りしま〜す。それじゃあみんな〜校長先生にしばかれない程度に〜お化粧を楽しもうね〜」
「また来週!」
チョコはそう言って、ミルクの方を見る。放送を終えようとしているミルクをバットで軽くコツンとする。ミルクはカンペを取り出す。
「……えっと最後にお知らせで〜す。画面に出ているQRコードを読み込むと〜魚池ドラッグズ&コスメのクーポン券がゲットできるよ〜。今度の日曜日だけ有効で全商品十パーセントオフだよ〜。私もお店に出ていると思うからみんな来てね〜」
チョコとミルク、手を振る。裏アカウントの放送はここまで。
場面変わって先程の校長室。割井校長と強がいる。
「校長先生、俺も生身の人間なんだから、殴られれば多少は痛いんですからね。もう少しお手柔らかに」
強はそう言ったが、校長に殴られた痛みは余り感じていなかった。今朝ミルクにおごってもらったクッキーを食べてから体調がいつもより良かった。
「いやぁ、すまんすまん、強君。つい調子に乗ってしまって。しかし生徒達には格好のプロモーションになっただろう」
校長は現金の入った封筒を強に渡す。
「度々汚れ役をお願いして、本当にすまないと思っている。君しか頼める人がいないのだよ。これはほんの気持ちなのだが」
強は封筒を受け取る。
「あ、どうも。あの……結構分厚いですが 中身は千円札ですか?」
「わしをみくびってはいかんよ。もちろん五百円札だ」
「岩倉具視かーい!」
「冗談だ。魚池ドラッグズ&コスメの売り上げ増を考えたらこれくらいは当然だよ」
どうやら今回の裏アカウント放送は魚池学園系列の魚池ドラッグズ&コスメのプロモーションが目的だったらしい。




