第26話 騎乗から正常の体勢へ
女性上位の社会体制の実現を願うくのいち。しかし正常な体勢では自分が下にならなくてはならない事に気づかずにいた。魚池グループきっての秀才切磋琢磨はそこを突いてくる。
今まで二人を観戦し撮影していた切磋琢磨が突然二人に近付く。彼は左手で髪をかき上げ、キメ顔でこう言う。
「強君、残念ながら君は間違っているよ。今はくのいちさんが君に騎乗しているじゃないか」
琢磨は瞬く間に強とくのいちを包帯で縛り上げる。二人は腹部を密着させ寝転んだ状態で強が上、くのいちが下になる。
「これが正常な体勢の実現だ」
「キャー!」
とくのいちの叫び声。
撮影をしているミルクからは、
「琢磨さ〜ん、ナ〜イス!」
の声。
隣の部屋で実況中継を続けていたチョコはこの放送コードギリギリの事態に慌てる。
「大変、お見苦しい所をお見せしました!」
画面にはユーザーの書き込みが流れる。
『見苦しく無い』
『続きを見せて』
『ここからは課金制でつか?』
『男女の第二ラウンドに突入だね』
『切磋琢磨、最強』
など。
チョコが続ける。
「勝敗ですが、強が負けを認めたため、くのいちの勝利とします。くのいちにベットした方には手数料を差し引いた1.2倍のポイントを払い戻し致します。それではまた!」
チョコは自撮りのカメラに向かって手を振る。パソコンの画面が暗転する。裏アカのゲリラライブはここまで。
場面、再び部室に戻る。くのいちと強は恥ずかしい格好で包帯で固定されている。その横でミルクが、床にもう一度ピクニックシートを敷いて、先程くのいちが片付けた布団一式をセットする。
「はい、二人とも~。仲直りの時間ですよ~」
ミルクは縛られたままの二人をごろりごろりと転がして、布団の上に乗せる。枕の横にはティッシュと0.02mmと書かれたチョコレートの箱くらいの大きさのアレ。琢磨は撮影を続けている。
強が上、腹を密着させたくのいちが下、のポジションが整ったところでミルクが再び掛け声。
「Now, let the fi〜ght begin……again!」
「この作品の放送大学のゴールデンタイムの放映は諦めた方がいいかもしれません」
と琢磨はまるで他人事の様に言う。くのいちと強は赤面している。
「強、あのさぁ」
「何だ、くのいち?」
「こ、このタイミングで変な液体出さないでよね。妊娠しちゃうんだからぁ!」
「お前、人間には可能な事と不可能な事があるんだぞ。……あ、でも……」
「何よぉ?」
「なんかトイレに行きたくなってきた」
強のこのとんでもない発言に、くのいち慌てる。
「剛力! ダメよ! 液体は全て禁止! ガマンなさい!」
くのいちは包帯から逃れようと、体をくねらせる。
「お嬢様、あまり体を動かすと私めの液体が……」
「分かった。大人しくするわ、剛力」
「どっちの液体ですか、強君?」
「琢磨さん、見事なツッコミ〜。でも強君は突っ込んじゃだめだよ〜」
ノリノリな二人。
一方の強とくのいちは、いつの間にか会話が執事&お嬢様モードになっている。
「それでお嬢様、あの……固体ならよろしいでしょうか?」
くのいち、蒼ざめる。
「あんた、人間捨ててるわね」
「せめて気体だけでも……」
くのいちの顔から生気が失われていく。
「半固体なら許してくれますか? 沢山出そうなので、お布団を汚しちゃうかもしれないのですが……」
「ちょ、ちょっと待って。話し合いましょう剛力」
「もう我慢できません、お嬢様。発射秒読み十秒前。九、八、七、六……」
くのいち、虚ろに開いた口からはヨダレが流れ、もうろうとしながら、
「あたし、老人介護には向かないかも……」
と呟く。
「第二ラウンドは~強君の勝ちかな~」
「強君って手だけじゃなくて口でも結構イケるんだね。今度僕にもお願いしたいな」
と琢磨。
ミルクと琢磨のヘンテコカップルのパフォーマンスが、強とくのいちの仲直りにどれほど役立ったのかは不明である。
同じ日、学校からの帰り道のくのいち。強に脇の下の匂いを嗅がれているところを想像している。
赤面しながら独り言。
「バカ。変態」
くのいちの心の中で強が、
『変な想像すんな! やってねえだろ!』
とツッコミを入れる。
ここでドラ◯エ風のエンディング。
くのいち と つよし の せいしをかけた たたかい が おわった!




