第24話 お願いを1つ聞いて♡
邪念を振り払い、敢然とバトルに臨む強。しかしそこには恐ろしい罰ゲームの条件が課されていた。
邪念の消えた強はツッコミを無視してくのいちに言う。
「くのいち、俺はなぁ、タダのケンカには興味がないんだよ」
くのいちもはっ、と我に帰る。
「(そうだった。バトルの話をしているんだったわ。大砲とシエラの事は忘れなきゃ)」
「タダとは言わないわ」
くのいちは財布から一万円札を一枚取り出し、目の前に広げる。
「あたしに勝ったらこれをあげる。日本の経済の発展に貢献した有名なお方の肖像画よ。おまけに今月の家賃をタダにしてあげてもいいわ。そのかわり、あたしが勝ったらひとつ言う事を聞いてくれる?」
「タダってそういう意味じゃねぇんだけど、まっいいか。ところで言う事を聞けって……毎日お前の足の指を舐めろ、とか毎日お前の脇の下の匂いを嗅げ、とかいうのは無理だからな」
強のボケた発言に少し赤面するくのいち。
「誰がそんなお願いをするの! このたわけが!」
そう言いつつ、心の中で、
「(あ、でも足の指ってちょっといいかも)」
と思い、強に足の指を舐めてもらう場面をしばし想像する。くのいちはその後我に帰り、強に携帯の画面を見せる。
「今度の週末、アウトレットでバーゲンがあるの。それに付き合って」
「アウトレット? そんなの女友達と行けばいいじゃないか」
「ダメよ。友達にあたしの荷物を山ほど持たせる訳にはいかないもの」
それを聞いて強はコミカルに涙を流す
「つまり、僕が負けたら、あなたの召使いになるのですね。うっうっ……」
強の泣き真似を無視してくのいちが続ける。
「召使いというか執事ね。当日は黒の燕尾服を着てあたしをエスコートしてもらうわ。……ほら、剛力、ちゃんと荷物を運んで。剛力、喉が渇いたわ。タピオカミルクティーを買ってきて。剛力、水溜りがあって進めないわ。あたしをお姫様抱っこしなさい。剛力、ダブルベリーバナナクレープを大至急二つゲットして。剛力、あのバーゲンの行列に並びなさい……」
くのいちはアウトレットのショッピングを想像して有頂天になっている。
強はつぶやく。
「既に勝った気でいやがる。いっちょ本気でやったるか」
そこに、
「準備できたよ〜」
とミルクの声。
「おっ、ミルク、すまん。バトルするには机が邪魔だからな……っておい!」
強が部屋の真ん中に目を向ける。十個程の机と椅子は全て壁際に移され、大きくあいた部屋の中央にはピクニックシートの上に布団が敷かれている。
枕元にはティッシュの箱ともう一つ、薄いゴムがくるくる巻かれたアレが入っている小さな箱。0.02mmと書かれている。この手の冗談に免疫が無いくのいちは赤面する。
「何なのよ、これは!」
「吟じま〜す。『喧嘩して〜 布団の中で〜 仲なほり〜』 いい俳句でしょ〜?」
とミルクがドヤ顔で言う。
「俳句って……季語が入っていないじゃない。川柳よ、これは!」
と言うくのいちに琢磨がツッコミを入れる。
「くのいちさん、布団は冬の季語です。今度の古文の試験に出るかもしれないので、覚えておいて下さい」
「あーもうどーでもいー!」
くのいちはそう言って布団を壁際の机の上にのける。
「強、勝負よ!」
強は心の中でつぶやく。
「(ミルクはああやって、俺達がマジになり過ぎない様に気を使ってくれてるんだなぁ。ったく、いい女だぜ)」
強、ファイティングポーズをとる。
「かかってこいよ、くのいち。……あ、ちょっと待て」
強がミルクに目をやると彼女はフリップボードを片手に持ってメッセージを強に送っている。そこには、
『強君、もう少し時間を稼いで』
とある。
ミルクと琢磨はいつの間にか、くのいちと強の様子を撮影している。チョコは裏アカライブ配信の視聴者が百人を超えたのを携帯で確認して、隣の部屋に姿を消す。
「闘う前に準備運動をさせてくれ」
と強。チョコは他のメンバーに気づかれないように、隣の部屋で自撮りの撮影をしながらアナウンスを始める。




