第236話 (2話完結短編)スカウトされたい①
「おかしい。もう30分以上センター街周辺を歩いているのに何も起きない」
渋谷駅の周りをあてもなくぐるぐる歩き回るくのいち。これには訳があった。
話は1週間前にさかのぼる。
ガーディアンデビルズの部室で談笑するくう子とミルク。
「働いたその日にお給料がもらえるのだ! 『あなたは特別だから時給六千円もクリアできます』って言われちゃったのだ!」
嬉しそうにミルクに話すくう子。チラシを見せびらかしている。
彼女はスマホゲーム「クリスタルメイズ」の仕事で十分な報酬をもらっているが、自分が街中でスカウトマンに褒められた事が嬉しかった様子。
「私はこの前、名刺をもらったよ〜。チャラ過ぎて笑っちゃったけど、記念に名刺は取っておいたよ〜」
チャラ名刺を見せるミルク。
「私も名刺を見せられた事はあるのだ。でももらおうとしたら、『話を聞きにオフィスまで来てくれないと渡せない』と言われたのだ」
とくう子。その人からは名刺をもらわなくて正解だった様だ。
くう子とミルクから少し離れた椅子に座り、彼女達の話には興味が無さそうに、携帯をいじっているくのいち。しかし心の中では……
「(何であの子達はスカウトマンに声をかけられまくっているのに、私は一度も声をかけられていないのよ! やっぱり渋谷にはほとんど行かないのが問題なのね!)」
そういう訳で、日曜日にくう子、ミルク、くのいちの3人で渋谷にショッピングに行く事になった。
「道玄坂と文化村通り辺りにはお洒落なお店がいくつもあるのだ」
「ハチ公前で待ち合わせすると、スカウトが寄って来るよ〜」
との事で待ち合わせは定番のハチ公前。しかしくのいちは渋谷駅には約束の1時間以上前に着いて、周囲を徘徊していた。
「ミルクとくう子に会う前に、すでにスカウトマンに会ったという既成事実を作っておきたい」
「渋谷は工事ばっかしてるはず。久しぶりだとハチ公を見つけられないと困る」
との思惑からだった。
そしてセンター街からメガドンキ、文化村通りと道玄坂、と徘徊するくのいち。しかし綺麗な長い黒髪、スラリと伸びた手足に178センチはあろうかという長身、整った凛々しい顔立ちの彼女に声をかける男性は1人もいないのであった。
「もうタイムアップだ。待ち合わせのハチ公前に向かおう」
さっき場所は確認したので、迷う事無く、足が棒の様にツルツルにすり減っている犬の銅像に向かう。今まで何百万人の若者が、この忠犬の足をこすこすしたのであろうか。
『雨だれ石を穿つ』ということわざがくのいちの脳裏をよぎる。
一方ハチ公前でくのいちを待っているくう子とミルク。やはりチャラいスカウトマンに声を掛けられている。
「カノジョ、イケてんじゃん。モデルの経験あるんだよね?」
「あると言えばあるのだ」
口調がスマホゲーム『クリスタルメイズ』のヒロイン、クコリーヌになっているくう子。
「こうか?」
と得意のポーズを決める。
かたやミルクは、ちょっと無防備なくう子に心配げ。
能あるFカップ魔女は文字通り爪を隠している。
そこにくのいちが到着する。
さあこれからJK3人で楽しいお買い物だ。 つづく。




