第233話 くのいちに炸麺を食べさせる強
部屋に残ったのはくのいちと強。
「お前、具合は大丈夫か?」
「どうせ『子供一人産んだくらいの方が具合は良くなるぞ』とか言うんでしょ!」
「何だよそれは」
「(いけないいけない。もうさっきの夢の事は忘れなくちゃ)」
「なんか頭がぼーっとしてる。いつものあたしじゃないみたい」
「プリン買ってきたんだけど、とりあえず冷蔵庫に入れとくぞ」
「ありがと。でもいきなり強が部屋に入ってくるからびっくりしちゃった。あたしこんな格好でしょ、恥ずかしいわ」
「お前の母親がこのままノーアポで行けっていうから」
「そうなんだ。(うちの母親が変に気をきかせて強をうちに連れて来たの? ちょっと嬉しいけど恥ずかしいよ)」
一方、くのいちのマンションを出て、お手伝いさんの運転する車で帰路に着くくのいちの母親。
「(強君はいずれ私がいただく。でもその前に一恵と強君をくっつける。一恵が最高の幸せを味わってから私が強君をいただく。幸福から絶望のどん底に叩き落としてあげるわ。フフフフ)」
彼女の顔はいつの間にかピエロの様になっている。両手でトランプカードをいじっている。
「奥様はヒソカにそんな計画を練っておられたのですね」
「と運転手をしているお手伝いさん」
「なーんちゃってー」
「冗談でしたか。危うく著作権に引っかかるところでしたね」
一方、室内の二人。
「それで、何か食材を持ってきてるみたいだけど、まさかあんたが料理をするの?」
「ふっふっふっ。そのまさかだ。俺のフランクフルトを食え」
「ちゃんと洗ってよね」
「なんの話だよ」
「あんたが料理できるなんて知らなかったわ」
「下ごしらえはしてもらった。子供でもできるさ」
「まさかあんたのフランクフルトを食べたら、子供でもできちゃうの?」
「お前、熱で頭がおかしくなってないか?」
「高温期だと妊娠しちゃうのよ!」
「分かったからちゃんと寝てろ」
くのいちは、くしゃくしゃの布団の上にデンと横になる。
「お布団、掛けてよ」
「お前、掛け布団の上に寝てるじゃねえか。取るぞ」
強はそう言うと、掛け布団の端を持って持ち上げる。くのいちはベッドの上でごろりと転がる。
「あーれー」
「何を恥ずかしがっておる。良いではないか」
「お殿様、おたわむれを」
とどこかで見た時代劇のワンシーンのセリフを言うくのいち。
強は取り上げた掛け布団を空中でひらひらと軽くなびかせる。
「はい。気をつけの姿勢で仰向けになって」
指示に従うくのいち。強はその上にファサッと掛け布団をかける。彼は持参した食材を持って台所に向かう。
「台所、借りるぞ」
「ご自由に」
「洗濯物溜まってないか?」
「洗濯機のある脱衣所に侵入したらブッコロだからね!」
台所で強はまず中華鍋に油を敷いて、輪切りにしたフランクフルトを加熱する。少し焦げ目がついたところで、持参した中華あんを加える。
その間に、やはり持参した焼きそば麺の袋に小さく切れ目を入れてレンジに入れる。
レンジがピピピと鳴ったら袋から取り出した麺をフライパンによそり、サラダ油をかけてなじませる。
フライパンに火をかけてフライ返しで押さえつけながら加熱していく。
麺が程よく硬くなったところで二つの皿に盛り付け、その上に加熱した中華あんをかける。中華風硬焼きそば、炸麺の出来上がり。
二つのトレイにそれぞれ水の入ったコップと料理を載せて、テーブルの上に置く。
「できたぞ。風邪をひいている体にはちょっと消化にいいかは分からねえが、これしか作れなかったんで勘弁してくれ」
ベッドから起き上がってテーブルに着くくのいち。
「これ、あんたが作ったの?」
「俺はフランクフルトと麺を炒めただけだ」
「じゃあ麺に乗っかっている中華あんは?」
「……彩子ちゃんが持たせてくれた。お前が休んだのを聞いて、帰宅後に速攻で調理してくれたらしい」
「あの子、料理上手だもんね」
ちょっとトゲのある口調のくのいち。
「この前彩子はお前に誤解をさせたみたいで、謝ろうとしてたらしいぞ。この料理がその証拠だ」
「この中華あん、毒は入ってないわよね?」
「じゃあまず俺が毒味してやる」
炸麺を食べ始める強。
「うん、うまい」
ぱくぱくと食べる強を見つめるくのいち。
「お前が食べないんなら全部俺がいただくぞ」
「あたしも食べる」
炸麺を口に入れるくのいち。
「美味しい」
「これで毒が入っていたら二人で心中だな」
次第に箸が進むくのいち。
「強の炸麺美味しい。このフランクフルトに中華あんがトロリと絡むところもいい。もっとちょうだい!」
「あとは俺の分しかないぞ」
「あんたの炸麺はあたしのものーっ!」
強の皿にも箸を伸ばすくのいち。
因みに炸麺は中国語で『ジャーミェン』と発音するらしい。作者は中国語には疎いので、ここは分かりやすく『ザー麺』と表記したい。この作品がもしアニメ化されたら、先程のくのいちのセリフは是非YouTubeの切り抜き再生に使って欲しい。
「強の炸麺美味しい。もっとちょうだい!」
「強の炸麺はあたしのものーっ!」




