第225話 ナニをしろ。姦れ。
「ダメだ。あたし頭がピンク一色になっちゃっている!」
玄関の外で深呼吸を繰り返し、清い心を取り戻そうとするくのいち。気にする事はない。誰でも若い頃は一度は通る道なのだ。
再び部屋の前に戻ってくるくのいち。襖の向こうからはまた二人の話し声が聞こえる。
「お前のまんげ、今日見せてくれよ」
「じゃあちょっとだけだよ」
「いいから見せろよ」
「……ああっ、そんなに回転させちゃあダメだよ、花びらが見えなくなっちゃうー」
もはやこれに騙される読者はおるまい。しかしくのいちは……
「その花びら、ちょっと待ったーっ!」
ちゃんとお約束は守る。
まさか彩子が万華鏡を持ち込んで強と二人で見ていようとは気付かなかった……のはくのいちだけか。
よし、まだまだ行けるぞ。くのいちが一旦中座してふすまの前まで戻って来ると、部屋の中から彩子と強の話し声。
「ちゃんと開いてよく見せてくれよ……お前、まだ生えてないんだな」
「あんまり見ないでよ、恥ずかしい」
「おつゆが出てきちゃったな」
「強君が広げるからでしょ!」
「じゃあ俺のも見るか?」
「強君のはちゃんと生えているの?」
「当たり前だろ、よく見ろよ」
「……本当だ。なんかこうして見てると、抜いてあげたくなっちゃうね」
「プロに抜いてもらうからお前は触るだけにしてくれ」
くのいち、これはもうお前の義務だ。行け!
「プロに抜いてもらうの待ったーっ!」
とふすまを開けるくのいち。よく見ると、彩子と強は奥歯の親知らずの話をしていたのだ。
中座したくのいちが再びふすまの前に戻ってくると、
「ちゃんと竿を立ててくれないと穴に入らないよ強君」
「お前、また入れたいのか? よし、今度は俺がねじ込んでやる」
「股に入れるの待ったーっ!」
二人はパターゴルフをしているのであった。
「あっ強君、パイパン舐めちゃ汚いよー」
「悪いな、俺の趣味なんだ。マンズの鳴きホンイツ、パイパンドラ三でハネ満だ」
「パイパン舐めるの待ったーっ。ついでにその萬子の鳴きとかハメマンも待ったーっ!」
二人は麻雀をしていたのであった。
くのいちは麻雀のルールを知らないのだ。聞き違いをしている。それにしてもマンズも『萬子』と漢字にすると妙な味が出る。しかしハネ満を嵌めマンと聞き違える人は初めて見た。くのいちは重症だ。
そろそろネタにムリが生じてきた。万華鏡を彩子が持ってきたまではいいとして、パターゴルフや麻雀のセットはどこから持ってきたのだ? 仕方無い。話を進めなければなるまい。
「私、濡れていないと、うまく入れてあげられないんだよね。でも今なら大丈夫だよ、強君」
「おい、みんなが見てるだろ」
「私は平気だよ。早くさして」
二人は相合傘の話をしているのであった。
「私のま◯こ、乾いているから入れると痛いよ」
「俺が湿らせてやるよ」
二人はコンタクトレンズの話をしているのであった。まなこが乾いていると確かに痛い。
……全然話が前に進まない。がこういうラブストーリーではちゅくば市でも突然進む物なのであった。
なんやかんやで再びくのいちが何度か席を外している時に携帯がピロリンと鳴る。見るとチョコからのLINE。その文面を読んでくのいちは血相を変える。
「(えっ、マジなの、チョコ?)」
慌てて強の家から数十メートル離れた公園に行き、チョコに電話をかける。強の狭い家で通話していると会話がまる聞こえになってしまう。ここは距離を取らなくては。
「ただいまー」
電話をかけに家から離れて公園に行ったくのいちと入れ違いに、強の母親が買い物から帰宅する。
「おかえり、母さん」
「お母様、おかえりなさい」
「一恵ちゃん(くのいち)がうちに来るって連絡があったんだけど、まだ来ていないのかい?」
「ついさっき来たよ、母さん。今はちょっと外に出ているみたいだけど」
と強。
母親は買い物の中身の一部を冷蔵庫に入れてから強に言う。
「強、ちょっと外で話があるんだけどいいかい?」
玄関の外に出る二人。
この家は他に人がいる時は、身内の話は戸外でしないと筒抜けになってしまう。壁が薄いせいか? 部屋数が無いせいか? これは大家の責任ではないのか? 幸い大家の娘なら数十メートル先の公園でチョコと通話中だ。後で行って来い(笑)。
「強、よくお聞き。さっき一恵ちゃんから連絡があって、今夜うちに泊まっていきたいんだってさ」
「えっ、母さんくのいちと我が家で女子会でもやるのか?」
「馬鹿なこと言ってんじゃないよ!」
母親は強に卍固めをかける。別名オクトパスホールド。某プロレス団体の主催者しか使えない必殺技だ!
「うわーっ、いたたた。母さん、ギブ、ギブ。ギブミーチョコレート!」
母親は強を投げ捨てる。
「私は進駐軍じゃないんだからね」
「痛いよ、母さん。それで、くのいちが家に来たら俺は何をすればいいんだ?」
「ナニをしろ。姦れ」




