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ガーディアンデビルズ〜学園治安維持の会〜  作者: トミロン
第5部 彩子、くのいちに命を狙われる編
223/243

第223話 私もすぐに現場に向かいます!

「運転手さん、チップははずむからもっと急いで」


挿絵(By みてみん)


「俺っちはこう見えても昔は『峠のドリフトキング』と呼ばれていたんだ。任せな、嬢ちゃん」

秘密の抜け道を疾走するタクシー。


 くのいちはタクシーで強の家に向かっていた。

「(うちの母親が強の家に押しかけでもして、強の肉体をもて遊ぶ様な事があってはまずい……そう思って強の母親に監視役をお願いしていたのが、思わぬ所で役に立ったわ)」


 強の家は賃貸の狭い一軒家。大家さんは資産家で土地持ちのくのいちの実家。以前強は、毎月の家賃の支払いでくのいちの母親の家に訪れる事が多かった。それをきっかけに、くのいちの母親は強に興味を持った様である。


挿絵(By みてみん)


 アラフォーとは言え、くのいちに引けを取らない整った容貌、スラリと伸びた手足。

「せっかくだからお茶でも飲んでいかない?」

 と強を部屋に招き入れ、ちょっとイタズラをしようとした事はある。

 強の誕生日に匿名でカラスミをプレゼントして、精力を増強させようとした事もある。


 一方、くのいちのおじいちゃんもちょっと強にいたずらをしちゃった事はある、というのは強とおじいちゃんの二人だけの秘密だ。


 くのいちは数週間前に強の母親と交わした会話を回想する。

「あの、強のお母さん、もし強の家に女の人(例えばくのいちの母親)が訪ねて来る様な事があったら、私に一報いただけませんか? お礼はお支払いします」

「大家さんのお嬢ちゃんの頼みなら断れないよ。任せといて」


 今から一時間ほど前。くのいちも土曜の朝は寝坊をしていた。

「今日は朝から強い雨みたいだし、もちっと寝ていよう」

 そう思ってふと携帯に目をやるとLINEの連絡が入っていた。強の母親からだ。

挿絵(By みてみん)

「えっ、何の用だろう?」

 LINEのメッセージを開くまで強の母親との約束は忘れていた。


『ついさっき、息子(強)の家にお客さんが来たよ』

 どうせ大した事じゃ無いでしょ、と思いながら、強の母親に返信するくのいち。

『ご連絡ありがとうございます、お母さん。どんな人が来たのですか?』

『強の部活のメンバーだよ』

『それで、もう帰ったのですか?』

『まだウチに居るよ。大きな荷物を持ってきてさ、今日は泊まっていきたいんだって』

挿絵(By みてみん)

 いやいや、そんなまさか。恐らく強の家に男友達が遊びに来たのを、わざわざ強のお母さんが連絡してくれたのだろう。全くおせっかいなお母さんだ。しかし念の為、次の一文を打つ。

『部活のメンバーって女性ですか?』

 これの返信が来るまでの一分が、くのいちには悠久の様に感じられた。


『もちろんそうだよ。連絡するのは一恵(いちえ)お嬢ちゃん(くのいち)との約束だったろう?』

『その女性の名前は分かりますか?』

 またもや返信が来るまでの一分足らずが永遠の様に感じる。早く来い、来い、返事! 遅いぞ携帯の電波! NTTよ本気を出せ!


『サイコちゃんっていうのよね。一恵ちゃん、メンバーだから知ってるでしょ?』

『サイコ? ミルクや千代子(チョコ)や陶子やくう子やアリスじゃなくてサイコなのですね?』


挿絵(By みてみん)

ミルク    チョコ     陶子    くう子    アリス


『一恵ちゃん、お友達多いのね。みんなで富士山の上でおにぎり食べられるね(笑)』

「(ちゅくば山の上でならこないだ済ませた。それにあいつら友達じゃねえ。潜在的な恋敵だ。必要とあらば闇に葬る)」


 本来くのいちはそんな風に考える人間ではない。多分。しかし彼女は今、テンパっていて、物の善悪は後回しになっているのだ。

『私もすぐに現場に向かいます!』


 現場って何だよ。殺人でもあったのかよ? という作者のツッコミを無視してくのいちのLINEは続く。

『お母さん、ついでにお願いがあるのですが』

『一恵ちゃんの分のお昼ご飯も用意しとくよ』

 と、とぼけたリアクションの母親。

『それはありがとうございます。でもその他に、私達は健全な高校生なのですからそのサイコに万が一にも一線を超える事がない様にご配慮いただきたいのですが』

『それは二人によく言って聞かせるよ』


『それと……私も泊めてもらう訳にはいきませんか?』

 これには強の母親もはっとした事だろう。

『狭い家で良ければ来てよ。大切な大家さんのお嬢ちゃんなんだから大歓迎だよ』

『支度をしたらすぐにタクシーで向かいます』


 慌てて外出の支度を始めるくのいち。

「飼い犬に手を噛まれるのはムツゴロウさんだけじゃなかったのね。私が本能寺で呑気にくつろいでいる間に、かような謀反(むほん)が企てられていようとは」

 彩子のいちごパンツを甘く見てはいけないのだ。


 くのいちがもし男だったら、この場合、着の身着のまま一目散に彩子のいる強の家に向かうはずである。しかしくのいちは女の子。取り敢えず歯を磨くが、『いつもより丁寧に磨かなくて良いのか?』と雑念がよぎる。次いでハトムギ入り洗顔フォームで顔を洗う。


「シャワーは浴びとかないとね。でももし彩子があたしより念入りに体を磨いていたらどうしよう……髪はどうする? 乾かしていたら時間がかかっちゃうし……そうだ、どうしても必要な時は強の家でお風呂を借りよう」

「下着は上下揃えておかないと」

 前回、ヒッキーの精神世界にダイブした時、くのいちは上下バラバラの下着を部屋に干しているのを強に見られた。同じ失敗は繰り返したくない。



「飼い犬に手を噛まれた」と悔しがるくのいち。彩子は飼い犬扱いか?


 ムツゴロウさんはライオンに指を噛みちぎられ、別のライオンにも首を噛まれ、ヘビに首を絞められ、サイに肋骨を折られ、馬に足の小指を踏まれている。それでも彼は動物達と確かな関係を築いた。くのいちよ、ムツゴロウさんを見習え。

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