第222話 お泊まりは確約された
無理矢理布団を強から引き剥がそうとする母親。抵抗する強。
(ちょっとかわいいけど強です。簿記の腕前を見せろ。シティーハンターを見習え)
「こら、抵抗するな! 彩子ちゃん、ちょっと手伝っておくれよ」
「お母様のご命令であれば従います」
布団を賭けた二対一のバトルが勃発する。強が掛け布団にしがみついている間に女性二人がかりで敷布団を剥がされる
「さあ、おとなしくその掛け布団を渡しな!」
「それだけは絶対に出来ねえ!」
掛け布団を激しく引っ張り合う三人。そうこうする内に、強の腕や脚など体の他の場所に血液がまわり、ようやく落ち着きを取り戻す。
着替えを終え、強の部屋にちゃぶ台が置かれ、そこで茶をすすりながら談笑する三人。彩子は強の隣にくっついて座っている。強と彩子の二人に向き合う形で座っている強の母親。
彩子は元演劇部で今はガーディアンデビルズに所属している事、父親は魚池大学SFキャンパス所属の天才科学者松戸博士先生であることなどが紹介される。
「彩子ちゃんは高校卒業後の進路は決めているのかい?」
「はい。私もSFキャンパスへの進学を希望しています。父の背中を見て育ちましたから」
「(余り父親の背中は見過ぎない方がいいぞ)」
と心の中でツッコミを入れる強。
「じゃあ彩子ちゃんは理数系は得意なんだね?」
「物理、化学は好きです。数学ほど勉強に時間をかけなくても点数が取れますから」
強の母親は強を見つめながら言う。
「こいつは算数や理科がさっぱりなんだよ。今度鍛えてやっておくれよ」
彩子の表情が輝く。
「はい、お母さん。喜んで!」
強と勉強会をする口実が出来た。彩子の妄想が一歩、現実に近づいた。あとは何を教えちゃうかだ!
「強君……」
彩子は少し恥ずかしそうにうつむいて強を軽く肘で押す。
「さっきの約束の事、お母様に……」
そう言われ、彩子との間の不平等条約を思い出す強。
「母さん、彩子ちゃんを今日家に泊めてもいいかな?」
『彩子ちゃんがうちに泊まりたがってんだけど』という言い方をしないところが強は優しい。
ちょっと驚いた表情をする母親に彩子が言う。
「すみません。今日は父が山に芝刈りに、母が川に洗濯に出掛けていて帰れないって言われて。私、一人で夜を過ごすのが怖いんです」
いくら何でも言い訳が下手くそ過ぎる。
「そうかい、そういう事情ならうちに泊まっていきなよ」
と物分かりのいい母親。
「ありがとうございます、お母様」
満面の笑みを浮かべる彩子。本当にこれでいいのか、強?
強がトイレのために中座し、用を足して出て来ると、トイレのドアの前に母親がいる。彩子の見えない所で小声で会話をする二人。
「あんた、彼女が居るならそう言っておくれよ」
「いや、別にカノジョと言うわけじゃあ……」
「ふーん。じゃあまだなんだね」
「当たり前だろ」
「だってあの子の服装、あんたの事が嫌いだったら絶対に有り得ないよ」
「今日は雨に濡れて慌てて着替えたみたいだったから」
「あんたも一人前になってきたね。やっぱあんたをちゃんとしたとこ(魚池高校)に入れといて良かったよ……あ、でもちゃんとしたとこに入れると妊娠しちゃうから注意するんだよ」
「何の話だよ!」
航空(口腔)高専に入れておけば間違いないぞ。校門からも大丈夫だけど相手の意思も確認したいところだ。
「何なら母さんがひとっ走りドラッグストアで買ってこようか? いちご味でいいかい?」
強の好きなフレーバーも知っているとはさすが血の繋がった母親である。
二人は部屋に戻り再び彩子を交えて談笑する。母親は世間話をしながら携帯をいじっている。
「(お客さんがいるのに俺の母親が携帯をいじりながら話すなんて珍しいな)」とちょっといぶかしる強。
その時母親が『はっ』とした表情になる。
「ねぇ強。母さんこれからお昼ご飯の買い出しに行って来るから、彩子ちゃんとゆっくりしてな」
「オッケー。昼は俺の好物を作ってくれるのか?」
「それはお楽しみにね。それと強、カワイイ女の子と二人きりだからって、一線を超えちゃダメだぞ」
その喋り方は、バットにタッチして甲子園までイッちゃうヒロインのマネか。
「母さん、俺を信じろよ」
「お母様、私そんなつもりで来たわけではありませんので」
「じゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃーい」
母親は出かけていく。
彼女が姿を消したその瞬間、
「なーんちゃってー」
と言って可愛く微笑む彩子。
「おい彩子」
「てへぺろ」
大分キャラがこなれてきた。




