第221話 朝立ちはまだ収まらない
「テレビアニメだと、最近のヒロインはやたらスカートの丈だけ短くて、それでいてどんな派手なバトルシーンでも絶対にパンツは見えないんだよな」
「何とかプリズムパワーでスカートがめくれない様に操作しているのですよね」
「ちゅくば市は研究学園都市だからな。何とか超電磁砲の力があれば絶対にスカートはめくれないぞ」
「ヒロインの事を『お姉様』と呼んでいる下級生の声が妙におばさん臭いのもポイントですよね」
「そうだな。ジワジワくる」
男子が興味ありそうな話題で上手く会話を盛り上げる彩子。
「でも今のはテレビの特撮やアニメのヒロインの話ですよね」
何やら含みを持たせるセリフである
彩子は今度はミニスカの下から両腰に手を入れる。
「あー何だか暑くなってきちゃった。パンスト脱ぐね」
立ったまま、なまめかしくパンストを脱いでいく彩子。膝を挙げた際にパンツがチラリと見える。イチゴ模様である。ちゃんと上下揃えている。しかも今日おろしたばかりの新品だ!
こいつぁマジだ。彩子は気合いが入っている。
勝負に来たな。
「ああっ、バランスを崩しちゃった」
パンストを脱いでいる途中で畳の上によろけて倒れ込む彩子。これではパンチラどころではない。
「(あくまで自然に見せるのがポイントだよ〜。自分から見せているんじゃなくて、仕方なくそうなった感を出すのが大事なの〜。ぐにょろろろ)」
ミルクのアドバイスを頭の中で反芻する彩子。自分の命がかかっているので必死である。でもこの戦法が強に通用するのであろうか?
「(パンモロに透けているブラ、おまけに朝立ちに突撃してぐっしょり濡れただの、おかしてくれだの泊めてくれだの、体が嬉し涙を流しているだの……俺はどうすればいいんだ? これは江戸時代から伝わる『据え膳』というやつか? 今までただのメンバーとしか思っていなかった彩子が急に女の子に見えてきた)」
意外と効いている様である。
「大丈夫か彩子?」
強に支えられて起き上がる彼女。
「あはっ。私ったらドジっ子だね」
そう言って彩子は、強の背後に回る。そして手を伸ばし、彼の両肩をつかむ。
「強君って肩幅広いんだね」
彩子は頬を強の背中に押しつける。
「おい彩子ちゃん……」
「お願い、もう少しこのままでいさせて」
「(これで男の子が何もしてこなかったら、あとは実力行使にイッて〜。ぐにょろろろ)」
彩子、お前はやればできる子だ。行け!
ほっぺた以外にも色々強の背中に押しつけながら彩子が言う。
「朝立ち、おさまったかなぁ?」
色気のある口調である。やはりミルクとの五百回以上にわたるクルミポンチの特訓は無駄ではなかったのだ! 彩子の演劇の素質が今ここで満開に開花したのだ!
「ねぇ、朝立ちは?」
「俺に聞かないでくれぇ」
「ちょっと様子を見てこようか?」
そう言ってなぜか彩子の手が強の背中から前の方に回る。
どこの様子を見るつもりなのだ?
強、これでいいのか? 攻められっ放しではないか! お前それでも主人公か? 反撃に転じろ! お前の南京玉すだれはただのお飾りか?
「よしっ、ここはもうイクしかねえ!」
強がようやく反撃の態勢に入ろうとする。そこに、
「ただいまー」
の声が玄関の方でする。強の母親が早朝のパートから帰ってきたのだ。
慌てて布団に潜り込む強。彩子も慌ててブラウスとスカートの裾を伸ばして体裁を整える。
ふすまを開けて強の母親が部屋に入って来る。優しく気さくな感じの女性である。
「すごい朝立ちだったねぇ、帰り道大変だったよ」
「母さん、お帰り。仕事お疲れ様」
布団から上半身だけ起こして母親を迎える強。
彩子は部屋の隅で正座をしている。強は彼女の方を見て言う。
「さっき部活のメンバーの子が遊びに来てくれたんだ」
「私、遊びなんかじゃありません。松戸彩子と申します。お母様、はじめまして」
深々と頭を下げる彩子。
「あらいらっしゃい。ところで強、あんたいつまで寝巻のままで布団に入っているんだい? さっさと着替えなよ。ほら、布団はたたんで」
「朝立ちがやむまでもう少しこのままでいさせてくれ、母さん」
「もう朝立ちはおさまったろ?」
彩子の攻撃でおさまるものもおさまりがつかなくなったのか。




