第220話 朝立ちの最中に失礼します
ラブコメアニメだと、ヒロインが主人公の部屋に入って「起きろー!」と起こしに来る、というエピソードは定番。しかし必ず天気は晴れ。朝立ちの時はないのだろうか? アニメの主人公は天気は関係ないのか? 関係あるのは俺だけなのか? こんな恥ずかしい事、両親や姉や弟には相談できない……と悩んでいた作者の青春時代。
翌日、土曜日の朝。強の家。六畳の和室で布団に寝ている強。
ふと起き上がって窓に目をやる。
「天気が悪そうだ。早く起きる必要もねえか」
そう言って再び布団に被さって寝ようとする。
そこに、
「朝立ちの最中に失礼します」
との声。強が布団から顔を出すと、大きなリュックを背負ったムンクのレインコートを着たお馴染みの少女が畳の上に座っている。
「これは夢だな。もう一度寝よう」
と言って再び睡眠体制に入る強。
「朝立ちの最中に強行突入してきました。お陰でこんなにぐっしょり濡れてしまいました」
強、改めて彩子を見る。夢じゃない。本物の彩子だ。
「お前、何だって俺の家に居る?」
「強君、私を置かしてください!」
「置かしてって、お前、自分の家はどうした?」
「降りしきる朝立ちのなか、二十キロの荷物を背負って強君の家に向かっていたら途中で力尽きてしまいました。もう帰れません。お願い、置かして!」
「取り敢えずその重そうなリュックを置けよ、彩子」
「では私を置かしてくれるのですね! 体が嬉し涙を流しています!」
「風邪をひくぞ。体は乾かした方がいい。着替えは持っているのか?」
「衣類はリュックの中のビニール袋に入れてきたので大丈夫です」
そう言うと彩子はムンクのレインコートを脱ぐ。
「(上着を脱ぐ時はゆっくりと、胸を大きくはるのがポイントなんだよね)」
レインコートの袖を外しながら胸を前面に押し出す様なポーズを決める彩子。少し湿ったブラウスからはブラが透けて見える。
あっけにとられる強。彩子は今度はブラウスのボタンをゆっくりと外していく。パッドの入ったAカップか。うっすらとイチゴ模様がプリントされている。
「(ここは、じらす様にゆっくりいかなくちゃ)」
強は無言で固まっている。そんな彼を彩子はじっと見つめて言う。
「私を止めてくれないんですか?」
「いいか、よく聞け彩子。俺は今寝ぼけているんだ。少年漫画だと『お、おい、何やってんだ、よせ!』とかいう場面だよな。でもそれってベタじゃないか? ここは新境地を目指してそのまま観察を続ける方が面白くねえか?」
「私を止めて!」
「止めればいいんだな。よし、着替えは廊下の奥の風呂場でやってきてくれ」
「私を泊めてくれるのですね! ありがとう強君。お風呂場も使っていいんですね!」
彩子は重いリュックを引きずって風呂場に行く。強が太平の眠りで寝ぼけてぼーっとしている間に、彩子はおかしてもらう事、泊めてもらう事、お風呂場を使わせてもらう事、など三つの不平等条約の締結に漕ぎつけた。
「お待たせしました強君」
そう言って強の部屋に戻って来る彩子。ふすまを閉めると強の前で正座して三つ指をついて深々と頭を下げる。
「今夜からはどうぞよろしくお願いします」
彩子の服装は袖なしの薄手の白のブラウス。下は黒のミニスカにパンストを履いている。彩子はこんな事するキャラだったのか?
「(ミルクちゃんのアドバイス通りに行動できている。このまま頑張れ、私! ぐにょろろろ)」
と彩子の心の声がする。やはりミルクの入れ知恵、もといアドバイスであったか。
「ところであと二時間くらいでうちの母親が早朝のパートから帰って来るぞ」
「そうなんだ。じゃあそれまで楽しい事をしようよ。私、色々準備してきたんだ」
彩子はそう言うと、立ったままの姿勢で上半身をかがめて、リュックの中をゴソゴソと何かを探す。後ろから見ている強からは黒のパンストの可愛いお尻が強調される。
彩子は強の方を振り向いて言う。
「私のパンスト、透けちゃいました?」
「そんなのよく見てねえから分かんねえよ。それに何でそんなに短いスカートを履いているんだ?」
「私、バトルアクションのヒロインに憧れていたんですよ」
そう言ってハイキックをする彼女。上体がぐらつき蹴りもグニャグニャだが、ミニスカパンストのハイキックは別の意味で威力がある。
「アクションもののヒロインか。そういえばミニスカは付き物だよな」
とちょっと興味を示す強。
「昔の特撮ヒロインのバトルシーンはパンチラが満載だったと聞きます。私もたまにYouTubeで再生して見ています」
「ベルスターがお勧めだぞ」
「そうなんですか。ちょっとネットでチェックします」
携帯のYouTubeでベルスターのアクションを見つけ、強と一緒に観る彩子。
「派手なアクションですね。昭和の特撮ヒロインはこんなだったんだ」
「このヒロインは余り手は使わずにキックで敵を倒していくんだ」
「パンチは使わずにパンチラで倒すのですね」
「彩子、上手いな」




