第216話 彩子は俺の女だ!(……って強に言われたい)
まるで人魚姫のお話の様だ。王子様の愛を獲得しなければ、自身は水の泡となって消えてしまう。彩子は運命と戦う決意をする。
「フルーツポンチにクルミをかけたらくるみぽんち〜!」
「本日の符牒一致、声紋一致、あぶないエッチなノリ一致」
ここは魚池学園のSF研出張所の秘密の入り口。ドアの前のマイクに向かってミルクが合い言葉の『くるみぽんち云々』を唱えると機械が反応してドアが開く。
「今日も私、冴えてる〜。さ〜中に入ろう彩子ちゃ〜ん」
学園内のトラブルは、武力だけでは解決できない物もある。
悩みを抱えている人の精神世界を映像化し、そこを探索できるのが、魚池大学SF研が開発したダイブシステムである。
システムの開発にはSF研の天才科学者、松戸博士先生が大きく貢献した。松戸彩子の父親である。ミルクも開発に一肌脱いだ。
しかし今回の第5部ではダイブシステムは使われない。ダイブシステムのあるSF研出張所のラボだけをミルクが拝借する様である。
ミルクはダイブシステムのあるSF研出張所の部屋に彩子と二人で入る。
「わ、私これからダイブするの、ミルクちゃん?」
「違うよ〜。ここなら〜他の人は入ってこられないから〜ゆっくり話ができるでしょ〜?」
「ありがとうミルクちゃん」
「それで、相談ってな〜に?」
しばらくもじもじとする彩子。そして意を決した様に大きな声で言う。
「私、とある男の子の所有物になりたいの!」
陰キャで恋愛とは無縁そうな彩子のこの言葉にちょっと驚くミルク。
「へ〜すごいね彩子ちゃ〜ん」
しかしその後でちょっと恐い顔をする。
「とある男の子って、まさか琢磨さん?」
ミルクの冷たい視線に背筋が凍りつく彩子。
「ち、違うよ。これ私の話じゃなくて私のいとこからの相談だから……お願い、信じてミルクちゃん!」
こういうあからさまな嘘に『お願い、信じて』の安売りはしない方がいいと思うが。
「そ〜なんだ〜。安心したよ彩子ちゃ〜ん」
いくら脳みそが頭蓋骨から自慢のバストにピクニック中のミルクでも、こと恋愛に関してはこんなあっさりと騙される筈はない。
彼女は彩子の恐怖に怯えた表情を見て、『この子は大丈夫だ』と判断したのだ。それにしてもミルクは、たかってくる虫にはどんな微生物であれ排除しておくタチなのだ。
「『彩子は俺の女だ、手出しする奴はただじゃ置かねえ!』なんて言ってくれる彼氏の所有物になっちゃいたいの」
「え、いとこの話じゃなかったの〜?」
「し、しまった……じゃなくて、これは例えの話なのよ。わかるでしょミルクちゃ〜ん?」
「わかるよ彩子ちゃ〜ん」
何となく会話を流れに合わせるミルク。
「でもそういう強いふりをする男って〜、家では彼女にも暴力振るったりするパターンってあるよね〜。一緒に暮らすと苦労するかもよ〜」
「そんな先の心配はいいの! 私はまだJKなんだから。取り敢えず今を生き抜きたいの!」
「今をイキ、ヌクのね〜」
ミルクの言葉には魔力がある。イキ、ヌクを噛み締めている内に何だか体が熱くなってしまう彩子。
「強いフリなんかじゃないもん! 本当に強いの! それに女の子にはとっても優しいのよ! お姫様抱っこだってとっても上手なんだからあ!」
「お姫様抱っこしてジャンプとかしてくれると最高だよね〜」
「お姫様抱っこしながらのスクワットは気持ちいいです。彼がしゃがむ時、私の膀胱に妙な圧がかかるのが快感でした」
もう、いとこの話はどうでもよくなってきた。お姫様抱っこされた自慢大会か。
余談だが、『ガーディアンデビルズ』を最初から読み返してみると、強はこれまでに三人のJKをお姫様抱っこしている。ミルクはくのいちからの追跡を逃れる為に強にお姫様抱っこさせて、不思議な自家製クッキーの力でそのまま塀を飛び越えさせた。
くのいちは強との『せいしを かけた たたかい』で彼に騎乗して屈服させ、その対価としてアウトレットモールで彼を二時間に渡ってお姫様抱っこさせ続けた。いくさはどんなにズルい戦法であれ、勝ってしまえば報酬は大きいのだ。
これまた余談だが、陸上部の池面君などは、『東京ドームシティホテルでスイーツバイキングをご馳走する』と言ってコスプレJKの沢山くう子を誘い出し、茨城藁葺き屋根村旅館半兵衛に連れ込み、くう子をいきなり背面駅弁に持ち込んだ。紳士的な強とはモノが違うのだ、モノが……いや、決してここでは強をけなしているのではない。
話を元に戻す。
「でも恋愛の相談なら〜私よりくのちゃんの方が上手だよ〜」
ミルクのその一言に彩子の表情がこわばる。
「ミルクちゃん、仮に私が三塁ランナー、くのいちがキャッチャーだとしましょう。キャッチャーがボールを持っている時に私はホームスチールを敢行しなければならないのですか?」




