第215話 もうそうのあげくにせいしをかける
彩子の頭の中は現実逃避して、空想の世界を漂う。
(妄想だから、スタイルはちょびっと盛ってまーす♡)
(実は小さいんじゃないか疑惑のある強)
夏休みに一人で市民プールに行って”偶然”強と出会い、そこで二人で仲良くアイスキャンディーを食べたり。
茨城県民のワンダーランド、かみね公園に一人で行ったら”偶然”強と会って二人で風神雷神ジェットコースターに乗って、後でチーズダッカルビクレープを食べたり。
朝遅刻しそうになってパンを咥えたまま通学路を走っていると、見通しの悪い角で”偶然”強とぶつかってしまい、その後は仲良く二人で遅刻したり。
アパレルショップで試着室に居たら、”偶然”間違って強が入って来てしまい、その後二人で仲良く服を選んでペアルックを買ってしまったり。
試験前に『物理のテストがヤバい』と言われ強の家に教えに行ってあげて、そのついでに試験範囲とは関係のない事を教えあってしまったり。
「この最後の妄想は私にしては攻めてる!」
と悦に浸る彩子。
いいぞ彩子。お前はやればできる子だ。もっとやれ。
「もっとか……私と強君が突然10年前に時間移動してしまうの。まだお互いの事を知らない二人が、スーパー銭湯で”偶然”出くわして、仲良く湯船に浸かったりとか?
10年後二人は”偶然”再会するの。ある時、強君が『10年前、一緒にお風呂に入った憧れの女の子って、彩子ちゃんだったんだ!』と”偶然”思い出してくれるの。そして二人は結ばれる……7歳までなら混浴は合法だから、なんの問題も無いわ!」
彩子、感動したっ!(涙)。こんな偶然って世の中にあるのか。まるで三日間連続で雷に打たれて、その翌日に6億円の宝くじが当たるくらいの確率だ。
これなら最近値上がりの激しい令和六年産の新米でご飯三杯はいける。おなかいっぱいだ。
この調子ならマスゲームもプロデュースできるんじゃないのか?
それはさておき、ひとしきりの妄想を終えた彼女は一つの結論に達する。
「私が強君の女になっちゃえばいいんだ! 私が生き残る方法はそれしか無い!」
こうして まつどさいこの せいしをかけた たたかいが じょまくしきを むかえた!
「私が強君の女になれば、さすがにくのいちも手は出せない。我ながら素晴らしいアイディアだわ。でもどうしたら強君は私の事を好きになってくれるのかしら?」
情弱な彼女だが、強に関する噂は幾つか漏れ聞こえていた。
まずは魚池が誇る伝説の弁護士の娘、節陶子。
(万引き前科4犯。美少女無罪で停学にすらならず。切磋琢磨をも籠絡。そのせいでミルクに命を狙われている)
あのピッグテールの三年生は以前『剛力強は私の新しい彼氏』とか言っていたのを耳にした。
強のバレエ同好会のメンバーの金髪ポニーテール女もいる。確か名前はアリス・ワンダ。
(トランプさんは労働者の味方♡)
強とは時々口げんかをしているのを見たことがある。
でもアリスも強の事を本当に嫌っている様には見えない。
チョコこと税所千代子もいる。携帯アーミーのリーダーで学園の情報を掌握している。
(強とはちっちゃい頃、よく見せっこ比べっこしたよ)
強とは二人でいる事が多いし、くのいちが強と『おしくらまんじゅうをしたい』と言った時、『きっつ』と言っていた。あのくのいちを挑発するくらいだから手ごわい。
古門劇代を抹殺する時に協力してくれた沢山くう子はどうなのか?
(学園祭の演劇で正義のヒロイン、クコリーヌを演じるくう子)
強には興味は無いのか?
そして最大の難敵はくのいち。
(得意技はかかと落とし。これで戦闘不能にした挙句、手裏剣で衣服を剥ぎ、殴る蹴るの暴行を加える。局部を切り取るとの噂も有る。)
彩子が対峙する相手は空母エンタープライズ、戦艦ミズーリ、爆撃機B29など錚々(そうそう)たる面々だ。ゼロ戦に竹槍を装備するのが精一杯の彼女はどう戦えば良いのか?




