第207話 チョコの謎解き(第4部本編これにて終了)
チョコが話を続ける。
「あれから私は、あの怪しいメールの受取人を徹底的に調べあげた。そうすると、犯人の五人力は十数人の生徒にまず直接メールを送っている事が分かったわ。その人達を調べてみると、全員同じクラスの生徒であることが判明した。しかもそのクラスの英語担当は、他ならぬ仁希先生。あの怪しいメールは仁希先生とミルクの英語の授業のファンからすれば、脅迫状なんかじゃないことは容易に想像がついた」
「でもなんでこんな大袈裟な事を仁希先生はしたのですかね?」
と琢磨。
チョコは仁希先生に問いかける。
「仁希先生は非常勤講師ですよね?」
「そうれす」
「先生の授業の人気の高さが評価されて、今度常勤講師として採用されると聞きました」
「それは正式な決定なのれすか? 私は『そういう可能性もある』という話しか……」
「割井校長先生をちょっとバットでぐりぐりすればその程度の情報入手は朝飯前よ」
「お父さん(割井校長)のバットをチョコがぐりぐりするの〜?」
というミルクのおふざけをスルーしてチョコが続ける。
「常勤になれば有料の補講講座を持つ事ができますよね?」
琢磨が口を挟む。
「補講講座って、放課後に追加の授業を任意で受けられるやつですよね。一コマ500円で」
「私は今のうちから補講講座を受けてくれる生徒さんたちを集めておきたかったのれす」
「常勤講師になって、補講も担当したら経済的に安定するね〜」
「私は今、貯えが必要なのれす」
「それってもしかして、これかなぁ?」
チョコは携帯の画面を見せる。若い男性と歩く仁希先生の写真。
「チョコさん、この写真、どこで撮ったのれすか?」
「携帯アーミーの情報網を甘く見ちゃダメだよ、先生。相手は先生のお兄さんかしら?」
「……実は彼は私がお付き合いしている大切な人なのれす」
「この写真、どこで撮られたかは分かりますよね?」
とチョコ。
「ホテルのレストランれす。この前彼と行ったのれす」
「へぇ〜、先生ってレストランの付いているホテルにも行くんだ〜?」
「……レストランの付いてないホテルはまだ行った事がないのれす」
「レストランは付いてなくても、ミラーボールが付いていればいいのよ。割井校長と奥さんのイシヨ先生は」
とおマセさんな事を言うチョコ。
(割井校長)
(割井イシヨ医師)
「えっ、そうなんだ〜。私の夜更かしのせいでお家だとできないから〜、私のいない昼間に頑張ってるんだね〜」
ミルクの暴走が続く。割井校長のプライバシーが生徒達に暴かれてしまった。
「先生〜、カマトトぶらずに正直に言って〜。週に何回致してるの〜? ぐにょろろろ」
脳味噌が頭蓋骨からバストにピクニック中のミルクは、思った事が直接口に出ている。
「ミルクちゃん、抑えて、抑えて」
と琢磨。
「私は好きな人の前だと余り自分を表現できなくて……でも、常勤講師になって補講も担当する様になれば、彼も私をお嫁さんとして考えてくれるんじゃないかと思うのれす」
生徒達から拍手が起こる。
「先生、凄いじゃないですか。応援します」
「こんな大事な事を包み隠さずに話してくれるなんて、感動ものだよ」
「他のクラスの奴も誘って、仁希先生の補講を受けます」
「ありがとう、みんな」
感涙している仁希先生。
「どう、私の調査力は? 怪文書の謎はすっかり解明できたわ」
とチョコ。
「チョコは犯人と接する機会が十分にあったのに〜犯行を未然に防げなかったよね〜。犯人が好き放題やって〜他の容疑者が誰もいなくなってから〜したり顔で謎解きをしたね〜。まるで犬神家? 八つ墓村? 横溝セイシ先生の金た◯硬介?〜」
とミルクが余計な事を言いまくる。
「ミルクちゃんが『セイシ』って言ったー。ばんざーい!」
「放課後残っていて良かった」
と生徒達。
「ミルクさん、Lake Mannの和訳がまだ終わっていないのれすが」
そう言う五輪仁希先生を琢磨が遮る。
「先生、僕も英語の試験内容に質問があるのですが!」
「切磋琢磨さんも復習をしたいのれすか?」
「僕はこの前の三校統一試験で英語だけ99点でした。それには承服致しかねます」
仁希先生暫く考え込む。
「ああ、あの問題れすね。あれは私の独自の判断で1点減点としました」
そう言うと先生は試験問題の英文を黒板に書く。
I help people sketching who have disabled arms.
「切磋琢磨さん、この英文を和訳してくらさい」
琢磨が答える。
「私は腕に障害のある人達に写生のお手伝いをします」
「正解れす。でもあなたは漢字を間違えました」
「仁希先生、これは英語の試験ですよね? 内容さえ合っていれば、些末な漢字の誤りで減点するのは如何なものかと思うのですが」
「これは内容も間違っています」
琢磨が答える。
「ぐぬぬ……これは悪質な引っ掛け問題です。先生は僕が興味のある内容の文章を作って、陥れたのですね」
「琢磨さんも床に落とし穴を作って私を落とし入れたでしょう? これでおあいこれすよね」
「琢磨さ〜ん、写生なんて漢字〜普通書き間違える〜?」
「ミルクちゃん、腕が不自由だと、その……」
「そっか〜。シャセ◯を手伝うんだ〜。ベストセラーにもなった『なんちゃらボランティア』だね〜」
「ミルクさん。『なんちゃら』の部分がちゃんと和訳れきていません」
と仁希先生。
「ミルク、言っちゃいなよ。私のピストルの腕を信じて!」
とチョコ。
生徒達が盛り上がる。
「チョコちゃん、ピストルは余り本気を出さなくていいから」
「これで俺、ご飯三杯はいけるよ」
盛り上がっているミルクファンの生徒に比べ、やや琢磨は深刻な表情。
「(やっぱり落とし穴はミルクちゃんの分も作っておけば良かった)」
この後、ミルクのバストにピクニックに行っていた脳味噌は、「ぐにょろろろ」とつぶやきながら無事に頭蓋骨に帰還した。これでミルクのあぶない発言は聞かれなくなるだろう。今日のところは。
第4部のエピソードはこれにて終了。次回、エピローグやなんやらがあります。




