第205話 魚池に下品な男は不要だ
五人力は琢磨を睨みつける。
「あなたは何者? 私とミルクさんの大切なひとときを邪魔しないでいただきたい」
「ミルクちゃん、このままでは危険だ。僕のリュックの中に隠れて!」
琢磨が手にした大きなリュックに体を入れるミルク。首から下はすっぽりと収まり、顔をその上に出している。それを背中に背負う琢磨。大きなリュックにはムンクの『叫び』のワンポイントが入っている。こんな物、どこから持って来たのだ、琢磨。
「ミルクさんには大切な用事があります。あなたがそれを邪魔するのであれば力づくで排除させていただく」
「君が五人力か。かかってきたまえ!」
「では遠慮無く」
五人力はモンスターの様に手のひらと爪を琢磨の方に向け、少しずつ近づいていく。
「ミルクさんをさらって秘密教室に連れ込んで、あんな事やこんな事をしてやるー! ガオガオー!」
琢磨の額に五人力のチョップ。
「うわぁ、左の額をやられたぁ! 傷跡が残るかもしれない!」
「琢磨さん、左の額の傷跡はダメ〜」
「どうしてだい、ミルクちゃん?」
「著作権的に大人の事情なのよ〜。既に、横に咥えたちくわ、緑色の衣装、得意の決めセリフ、背中に背負った葛籠、コーヒーの飲み過ぎといけないビデオで昨晩はずっと寝ずっ子の私、でリーチがかかってるのよ〜」
更ににじりよる五人力。ミルクをリュックに背負った琢磨は大人の事情を抱えながら後ずさりをする。次第に彼は部室の角に追い詰められる。
「琢磨さん、得意の包帯は使わないの?」
「ミルクちゃん。僕はいつも道具に頼っている奴だなんて思われたくないんだ。未来から来た青いネコ型ロボに叱られちゃうからね。ここは本当の僕の力を見て欲しい!」
いいぞ琢磨。出来杉なセリフだ。
「うわぁ琢磨さん素敵〜。あとで身体の呪文を消す為にお風呂に入らなくちゃ〜。どこでも、ドアは開いているからね〜。入ってきてね〜」
琢磨は五人力に問いかける。
「君は何故こんな事をしているのだ? ミルクちゃんに恨みでもあるのか?」
「復讐の為だ」
「ミルクちゃんは今、テストの復習の真っ最中だったはずだが」
「そんな小学生レベルのダジャレは却下だ。私は復讐をしてミルクさんに恥ずかしい思いをさせてやるのだーっ! ゲヘへへ……」
五人力の手が琢磨に伸びる。
琢磨は落ち着いた様子で、懐から緑色に光るリモコンを取り出す。
「魚池に下品な人間は不要だ」
そう言ってリモコンのスイッチを押す。五人力が立っていた床の六十センチ四方がぱかっと抜ける。
「うわーっ!」
五人力は床下に落下して首から上だけが床上に残る。
「うぐぐ……こんなところに落とし穴を作るとは琢磨総統も相当冗談が上手い」
これが何かのオマージュだとは琢磨デスラ気づかないであろう。
「ミルクちゃん、もう大丈夫だ。こんな事もあろうかと部室に落とし穴を仕掛けておいてよかった」
「す、素晴らしい作戦ですわね。切磋琢磨さん。ごきげん麗しゅう。おほほほほ」
「ミルクちゃん用の落とし穴は無いから、急にお上品ぶらなくても大丈夫だよ」
琢磨は『ミルクちゃんは僕が守る』とか言ってチェーンソーを用意していたが、ただの落とし穴掘り職人であったのか。綺麗に床が切り取られている。今回も見事に道具に頼ったな。ミルクがちくわを横に咥えた途端に琢磨が助けに来たのは、三本のちくわの匂いを嗅ぎつけてピンチを察しただけなのだ。著作権的にはなんの問題も無い。
琢磨はリュックを床に置く。ミルクはそこから体を出す。
「動けない。出してくれー!」
首から上を床の上に出し叫ぶ五人力。琢磨のリュックから出たミルクは彼を見下ろして睨みつける。
「出してくれ、ですって?」
「抜いてくれ。手を貸してくれ!」
ミルクは椅子を持ってきて五人力のカボチャ頭の横に座る。
「手を貸す必要は無いわ。あなたなんか足で充分」
ミルクはそう言うと、上履きを脱いで素足で五人力のカボチャの頭を擦り始める。
「それじゃあ抜けない。手を貸してくれ、出してくれ」
「抜いてあげな〜い。手は貸さな〜い。出してあげな〜い」
そう言って五人力の被り物の頭部を足の裏で擦り続けるミルク。
「それじゃあまるで蛇の生殺しだーっ!」
被り物のカボチャの首の辺りからヨダレを流して叫ぶ五人力。
「あら〜おつゆをこぼしちゃってイケナイ子ね〜」
ミルクは五人力に顔を近づける。
「あなたいい匂いがするじゃない」
彼女は五人力の顔の前にぺたんと座るそして首からマントの中に手を突っ込む。
「うぎゃあ!」
と五人力。
「ミルクちゃん、何を?」
と琢磨。
「大量破壊兵器とか隠し持っているといけないから、身体検査だよ〜」
「や、やめろ……」
「私に命令するの〜?」
そう言って腕を更に床の下の方に伸ばしていくミルク。もう手先は下半身に到達したか?」
「武器など隠し持ってはいない! 堪忍してくれ」
「まだ調べ足りないよ〜。もっとじっとりいくね〜」
「じっくりでしょうが!」
五人力にツッコまれるミルク。
延々と続くミルクの身体検査という名の拷問。最初は嫌がっていた五人力であったが、次第になされるがままになっていく。
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