第204話 ちくわアイテムの秘密
「私をどうするつもりなの?」
「そうですね……そう聞かれるとなんか色々してみたくなります」
「色々って……まさか私を無理やりポールダンス部に入部させて、一生ダンサーとして働け、とか?」
「一生肉体労働は50歳を過ぎるときついですよ」
「ま、まさか私を無理やり寿司部に入部させて、セクシーな衣装でお寿司を握れ、とか言うつもりじゃ……」
「どうしたらそんな柔軟な発想が生まれるのですか? 脳みそがちゃんと頭蓋骨に収まっている人間とは思えません」
「いやぁ、五人力さ〜ん、それほどでも〜」
「褒めていませんよ」
「そんなぁ〜」
第3部のエピソードでもあったように、『ミルクは太巻きを食べさせるのが上手い』というのは全校生徒周知の事実なのだ。
「(脳味噌か……。私の必殺技が封じられている。なんとかして、私の脳味噌)」
と自分の胸に訊いてみるミルク。すると、
「琢磨さんのアイテムを使うのよ! ぐにょろろろ」
と胸の辺りから返事がする。
「(そうだ! どうしてもピンチの時は使う様に琢磨さんがくれた箱があったわ!)」
ミルクは短パンのポケットから箱を取り出し中を開ける。……しかし入っていたのはなんとただのちくわが三本。
「(ちくわ? これを犬笛の様に吹いて琢磨さんに助けを呼べばいいのね!)」
ミルクはちくわの一本を縦に咥えそれで『琢磨さ〜ん』と呼ぶ。しかし弱点の左耳たぶを刺激されたので思うように大声が出ない。
「(ダメだ。大声が出ない。このちくわは役に立たないわ……ちょっと待って。琢磨さんがくれたちくわは三本! 私は今その一本を口に咥えている。あと二本あるわ! じゃあ二本目はお尻に入れて三本目は……ダメだ、それじゃあ私が昨夜観たイケナいビデオと同じだわ。放送禁止になっちゃう!)」
「さあミルクさん、諦めて大人しく私と共に参りましょう」
と言ってミルクに手を差し伸べるカボチャマスクの五人力。
「(考えるのよ森野ミルク。三校統一テストは先週終わったばかりで私の教養は今マックスに到達しているはず。三本のちくわの有効な利用法は……そうだ! 一本のちくわだとすぐにフニャフニャになっちゃうけど、三本のちくわなら簡単には折れないはず。確か広島の森元成さんがそんな事言っていた気がする!)」
これがもしニコニコ動画だったら画面に、
『教養がマックスでもここまでか(笑)』
とか、
『四本目のちくわは胸の谷間をキボンヌ』
とか無責任なコメントが踊りそうな気がする。
ともあれミルクは三本のちくわを束ねて握り、それを五人力に叩きつけようとする。一本のちくわなら折れても三本なら大丈夫なはずだ!
「おおっと」
彼は三本に束ねたちくわを『パシッ』とはねのける。哀れちくわは床に転がる。
「私の完璧な作戦が〜っ!」
ミルクの目はアメーバの様にぐにゃぐにゃになる。
床に転がる三本のちくわを呆然と見つめるミルク。
「(ああっ、私のせいで食べ物を粗末にしてしまったわ。これじゃあお百姓さんに叱られちゃう……)」
お百姓さんは管轄外だからきっと許してくれるだろう。材料は魚だ。
ミルクの頭の中で過去の思い出が走馬灯の様に駆け巡る。お父さんに連れて行ってもらったストーンヘンジでの野外ロックフェス、バービーちゃん人形、フラフープ、抱っこちゃん、フリスビー、銭湯の出口で売っていたおでんのちくわ……
「(せめて一本だけでも汚れていなさそうなちくわを食べよう。あの焦げ目のついたやつが美味しそうな気がするわ)」
ミルクは床のちくわを手に取り、それを横に持って中央の焦げ目の部分を『あむっ』と咥える。
すると……
『バン!』
という大きな物音。ミルクと五人力が目を向けると、部室の入り口のドアが蹴破られ、そこにはなぜか大きなリュックを背にした琢磨が立っている。
「琢磨さん!」
「ミルクちゃんはっっ、僕がっっ、守ーるっっ!」
「琢磨さん! どうして私がちくわを横に咥えた途端に助けに来てくれたの?」
「詳しく説明すると各方面から著作権とか色々言われそうだから説明は無しだ!」
やはり世界的大ヒットを狙うのであれば、この展開は必須であろう。




