第202話 わらしべカワイイ子探しの終着点
テレビカメラとマイクの撮影スタッフがもう一度声をかける。
「くのいちさん、少女から女性への変貌に時間の焦りを感じている最中に申し訳ないのですが、取材をさせていただけないでしょうか?」
「言っとくけど、あたし全然焦ってなんかないんだからねっ!」
ムキになるくのいち。
「私達ちゅくばケーブルは、カワイイ子を探し求めて、今くのいちさんのところに辿り着きました」
「それはありがと」
「もしくのいちさんが、もっとカワイイ人を知っていたら紹介して欲しいのですが」
「ふーん。面白い企画ね」
くのいちは隣にいる節陶子を指さす。
「この子なんてどう? 節陶子ちゃん。金は何十億円も持っているから誘拐したくなるくらいカワイイよ」
陶子慌てる。
「くのいち、冗談はやめて! 可愛さで言ったら私はくのいちの足元にも及ばないよ」
「それにこの子は女としての悦びはしゃぶり尽くしただろう。もう思い残す事なんて無いはずだから」
処女の妬みもここまできたか。
「そ、そんなにしゃぶってないんだからぁ!」
「(女の悦びをしゃぶり尽くすって、こんな感じよね)」
と頭の中で変な妄想をするメガネっ子。
「じゃああたし達は先を急ぐから、陶子はここでゆっくりとインタビューを受けていてね」
「ちょ、ちょっと待ってよ、可愛くて美人なくのいち!」
「え、なぁに陶子? もう一回言って」
「私を置いていくなーっ!」
インタビュアーがマイクを向ける。
「節陶子さんですね。それではあなたがカワイイと思う人を紹介してくれませんか?」
「そこのヤンキーなんてどう?」
インタビュアーにテキトーに返事して切り上げたい気持ちが見え見えだ。
「こ、このバンダナをつけている女性ですね。彼女のどの辺がカワイイと思うのですか、陶子さん」
こんな質問が出てしまう様では……
「このヤンキーは太ももの内側の筋肉がよく鍛えられていて美しい。きっと締まりを良くするために日々努力を怠らないのであろう」
「あ、あたしの締まりの良さは生まれつきだ!」
「それにこのヤンキーは誘拐するのにおあつらえ向きだ。家族と上手くいってなさそうだから、行方不明になっても『どうせいつもの事』と、警察への通報は遅れるだろう。初動捜査を撹乱するにはもってこいだ」
「節陶子! 言わせておけば! お前だって『母親が仕事絡みで何日も家に帰って来ない(泣)』ってボヤいてたじゃねえか!」
「命の重さが軽い人から犠牲になった方が、世の為人の為なのよ」
「どうやらお前の母親は人権派の弁護士じゃないみたいだな! ここはお前に正義のヤンキーパンチをお見舞いしてやろうか!」
「あたしとやろうってのか? ちなみにこの学園では美少女無罪が適用されますけど」
「び、美少女無罪……お前、シャレになんねえよ」
かつてヤンキーパンチを恋敵に浴びせたヤンキーは停学をくらった。一方の節陶子は、万引きで四回捕まっても退学はおろか停学にすらなっていないのだ。
節陶子の母親は魚池が誇る敏腕弁護士の節操。魚池が外資系証券に騙されて200億円の被害を被った時、返還訴訟の弁護団を組織した。
ちなみに、弁護士節操先生はダイブの仮装現実の世界でミルクと行動を共にした時、崩壊する世界でミルクを見捨ててバックれた。
その為、ミルクは穴に落ちて全身串刺しとなりゲームオーバーとなった。
あの時はミルクも『奥義、浮遊の術』をシャキーンと決めるつもりでいたのだが……
多分彼女は人権派ではないだろう。もっとも、ミルクの例の余計な一言が彼女の逆鱗に触れてしまったせいでもあるが。
それはさておき、インタビュアーがヤンキーにマイクを向ける。
「ではヤンキーさん、あなたがカワイイと思う人を紹介してくれませんか?」
「それは……当然……森野ミルクさんだろう」
「あー、ヤンキー! そーゆー事言うんだー! もう遊んであげなーい!」
とふてくされるくのいち。彼女はミルクが五人力に襲われる事を少し期待している反面、ミルクが一番カワイイ子に選ばれるのは気に入らないみたいだ。面倒くさい女だ。
「くのいちさん、遊んでくれないとあたしはどうなっちゃうの?」
「可愛がってあげるに決まってるだろ」
両手の指をポキポキと鳴らすくのいち。
「くのいちさん、許して下さい。ここでミルクさんを推薦しなかったら、どんなお仕置きをされるか」
それを聞いてくのいちも青ざめる。
「お、お仕置きか。それじゃあ仕方ないわね」
かつてダイブの世界でミルクから受けた拷問の数々がくのいちの脳裏をよぎる。
「(お仕置きって、本当にあるんだ……)」
ミルクのお仕置きの話で青ざめているくのいちを見て、陶子も青ざめる。
何と言ったって、あのくのいちがあれだけビビっているのだ。
立っているのがやっとの様子で顔は恐怖に怯えている陶子。そりゃあ、ミルクの最愛の恋人を横取りしようとしたのだから、いつ葬られても不思議ではない。まだ刑の執行が猶予されているだけなのだ。
時折見させられる悪夢が、ミルクの仕業であるとようやく確信した陶子。
しかしヤンキーはヨダレを流して嬉しそうな顔をしている。
「くのいちさんもお仕置き、どうっすか?」
「お仕置きって、フランクフルトの千本ノックですか? 顎が外れないか心配です」
とメガネっ子。
ミルクの名前が出た途端に各人が見せた特異な反応にインタビュアーも興味を持った様子。
わらしべ可愛い子探しはミルクで決定した様である。




