第20話 学校に行こうよ、ヒッキー
魚池大学SF研がミルクと協力して開発した、人間の深層心理を探検するダイブシステム。今回は不登校気味のヒッキーを被験者にして実験が行われる。彼は第45話以降の第二部で重要な登場人物となるが、今回は顔見せ程度。
それから数日後。今日は魚池大学SFキャンパスが開発した「ダイブシステム」の実験日である。ミルクが話していた、『深層心理を冒険するシステム』だ。彼女と魚池大学SFキャンパスが開発した装置である。
本来は『主人』と呼ばれる被験者に黒いカプセルに入ってもらい、被験者の精神を分析して、バーチャルリアリティの精神世界を構築する。
その世界を白いカプセルに入った『ダイバー』達が黒いカプセルに入った主人と共に探検するシステムになっている。カプセルの中で眠っている間に精神世界を共有するのだ。
学校の敷地内にある魚池学園SF研出張所の部屋の中。
白いカプセルの中に一人の男子生徒(比企くん、通称ヒッキー)、ミルク、くのいちの計三人がそれぞれ入っている。
帽子の様な装置を被っていて、装置からはコードが多数伸びている。
今回は練習モードなので三人とも白いカプセルを使用している。SF研のダイブシステムが創ったちょっとした異世界に三人の精神は転送される。
ヒッキー、ミルク、くのいちの三人は白いカプセルの中で半分意識を失っている。
気がつくとヒッキーは中世の街の様な仮想現実の世界にトリップしている。カプセルの中同様、彼は制服姿である。
彼は小太りで身長は百五十八センチくらいと小柄。顔立ちが可愛らしいのは長所か。商店、食堂、居酒屋、宿屋などが並ぶ街並みを歩いている。
「ここは異世界でござるな。ようし、拙者はこの世界のヒーローを目指すでござる!」
意気揚々と街を歩くヒッキー。しかし彼の前にいきなり剣が突きつけられる。
「うわっ、何だいきなり」
目の前には剣と鎧で武装したくのいちが立っている。頭に手裏剣は付いていない。手裏剣は戦闘モードで既に剣に変化させているのだ。彼女がヒッキーに話しかける。
「お前、明日の放課後は暇か?」
「いきなりデートの誘いでござるか? よっしゃぁ! 異世界ではモテるんでござるな。大丈夫、空けとくでござる」
身長百七十五センチのくのいちが百五十八センチのヒッキーを見おろす様にして言う。
「良かった。明日あたしが公園の土管の前でリサイタルを開くから必ず出席する様に」
くのいちが『♫あーたしはくのいちー、いーじめーっこー』と物凄い音痴な声で叫ぶ様に歌う。ヒッキー、怯える。
「あ、明日は家でネトゲを一人でやり込む約束があるので……」
「ネトゲを一人でやり込むのに約束もへったくれもあるか! 貴様、剣のサビにしてくれる!」
くのいちは剣を振り上げる。ヒッキー、逃げ出す。
「待て〜」
と追いかけるくのいち。ヒッキーは近くにあった道具屋に逃げ込む。
「いらっしゃ〜い」
道具屋のグラマーな女主人が出迎える。赤い瞳、緑色の髪。森野ミルクである。
「恐ろしい女剣士に追われているのでござる。何か武器はござらんか?」
「その女剣士って〜どんな人なの〜?」
「なんか鬼の様な顔で、背が高くて、長い黒髪で、歌が酷く下手くそで……」
「バストは〜?」
「全然無かったでござる」
ヒッキーの言葉にミルクはにっこりと微笑む。
「あなたにぴったりの防具があるよ〜」
ミルクはヒッキーに防具を着せる。
「あの、お代は?」
「二週間連続登校券〜、一枚だよ〜」
「それならついこの前ゲットしたでござる。」
ヒッキーは券をミルクに渡す。
「武器は〜これなんかどう〜?」
ミルクは肉切り包丁を渡す。
「英単語百個暗記券〜、一枚だよ〜」
「暗記は割と得意でござる。取っておいて良かったでござる」
「毎度あり〜」




