第199話 ジョーカーをくのいちに引かせろ、くう子
とヒッキー。
「カワイイ生徒ってどうやって探すのだ?」
とくう子。こんな状況なのに、彼女はこのインタビュアーの言葉に心惹かれている様だ。
強は頭の中で考えを巡らす。これは罠なのか? ただの偶然か? いずれにせよ変に目立つのは良くないのではないか? しかし、もしこれが罠だとするならば、敵の正体を多少は探っておいた方が良いのか?
「そこのイケメンのお兄さん、今ちゅくばケーブルのバラエティ番組で『わらしべカワイイ子探し』をやっているんです。お兄さんがまずカワイイ子を紹介して下さい。我々はそこから、更にカワイイ子を紹介してもらって、最後にちゅくば市一のカワイイ子を探し出したいんです」
強にガードしてもらっている女生徒達が一斉に強に目を向ける。彼女達は皆、多少なりとも強の事を憎からず思っているのだ。あまりそれを露骨に出すと、後でくのいちから『放課後に体育倉庫に来い』と呼び出しを受けそうなので遠慮している様ではあるが。
彼女達は強が何て答えるか興味深々なのだ。
「(一番カワイイ子に選ばれたら、五人力とかいう奴に狙われちゃわない? ヤバいよ)」
「(まさか私が狙われたりはしないよね。大丈夫大丈夫)」
「(もし強君が私を指名したら、責任を持って私を守ってくれるよね)」
などと思いを巡らす女生徒達。
アラサーのインタビュアーの女性が強にマイクを向ける。
「おい、無茶振りだな」
強はそう言いながらも考えを巡らす。
彼の頭の中にとっさに浮かんだのはミルクの顔。彼女の正体はともかく、客観的に見たらほとんどの男子生徒が彼女の名前をあげるのではないか? しかしここでミルクの名前を出すのはまずい。第一にくう子やヒッキー、その他の女生徒達も強の返答に興味深々なのだ。変な噂を立てられたくはない。
おまけにもし例の五人力とかいう奴がミルクの標的にでもなったら……琢磨が何とかするだろうし、ミルクがただでやられるはずはない。しかし彼女は手加減を知らない気がする。物凄い大事に発展する可能性はある。
強は目の前にいるヒッキーを巻き込む事にする。
「おいヒッキー。カワイイ子と言えばやっぱくう子だろう?」
「えっ、困るのだ。五人力に狙われちゃうのだ」
とか言いながらも、まんざらでもなさそうなくう子。
ヒッキーも強の提案に合わせる。
「強もそう言ってくれているし、くう子で良いでござろう?」
ちょっと舞い上がった表情のくう子にインタビュアーがマイクを向ける。
「それではくう子さん、自分よりもカワイイ子がもし居たら、教えてくれませんか?」
くう子の表情が曇る。
「そんな女、この辺にいるの? どうなのだ、ヒッキー?」
これは面倒臭い。くう子がヒッキーのカノジョならば堂々と『くう子よりカワイイ子などいないでござる』と啖呵を切れる所だが、ヒッキーとくう子はまだそういう間柄ではないのだ。強いていうならばゲーム仲間、大人っぽい表現をするならばビジネスパートナーと言ったところか。
答えに窮してもじもじとしているヒッキー。そこに強が助け舟を出す。
「おいくう子、ここはくのいちでも紹介しとけ」
それを聞いてくう子は面倒臭い反論をする。
「じゃあ強やヒッキーは私よりもくのいちの方がカワイイと思っているのか!」
「いや、くう子はカワイイでござるよ」
と中途半端な返答をするヒッキー。ここは最初から『くう子が一番でござるよ』とでも言っておけばよかったのだが、彼はまだこういう場面での場数が足りていない。
強がくう子の耳元で囁く。
「おいくう子、これはババ抜きゲームなんだ。ジョーカーをくのいちにひかせろ」
「そうか、じゃあくのいちという事にしてやるのだ。ちゅくばケーブルの人よ、私達より約百メートル前方にいるくのいちに突撃するのだ!」
テレビクルーはくのいちに関する情報をくう子達から聞いた後、くのいちを目指して移動していく。
くう子はまだ面倒臭い小言をヒッキーに言っている。
「確かにくのいちはすらっと手足が長くてモデルさんみたいなプロポーションだけど、ヒッキーもああいうのがいいのか?」
「いや、決してそういうわけではござらん」
最初から『くう子が宇宙一カワイイ』とか言っておけばこんな風に話がこじれる事はなかったのであるが。
この面倒臭さがカワイイ、と思われている内が、人生の華なのですよね(遠い目)。




