第198話 集団下校中のハプニング
「胸になんか書き込んじゃダメ! 不純異性交遊になっちゃうでしょ!」
「くのいちさんの言う通りですよね」
それを聞いてちょっと意地悪そうに微笑むくのいち。『耳なし芳一』の話では芳一がお経を書き込まれていない耳の部分だけ魔物に見つけられ、引きちぎられてしまった。くのいちは冗談半分ながらその再現を願っているのか? ちょっとブラックジョークが過ぎる。
そこに自称カワイイ生徒達が十人ほど部室に押しかけて来る。
「切磋琢磨さん、私たちの下校まだですか?」
「すみません、すぐに向かいますので」
琢磨は急いでミルクの体に呪文を書き上げ、小さな筆箱大の箱を渡す。
「ミルクちゃんが一人でやりたいのなら僕は止めない。だけどどうしても必要な時はこの箱を開けてくれ。ただし絶体絶命のピンチになるまでは開けてはダメだよ」
「分かったわ琢磨さ〜ん。色々ありがと〜」
ミルク一人を部室に残し全員下校して行く。
ミルクは今日受け取った模擬試験の答案を取り出し、教科書とノートを開く。
一方、下校途中の強。彼を取り囲む様に十人程の女生徒とヒッキー。横にはくう子。その他にも数人の男子生徒が混じっている。
強は彼らに、女生徒達の集団の前後左右に着く様に指示して下校していく。時折やっかみ半分の挑発的な視線を投げて来る男の通行人達を無言の圧力で跳ね除けながら駅へと向かう。
その他大勢の女生徒達は、教師や半ばイベント気分の男子生徒達と共に下校していく。ガーディアンデビルズのメンバーの近くに陣取っている女性達は、やはりその他大勢の人達よりは自意識が高めな様ではある。
「今日の強は何か恐いのだ」
とくう子。
「一応女子全員に目を配らなきゃならんだろう。ヒッキー、いざという時には盾になれよ」
「拙者のできる限りの事はするでござるよ」
くのいちは強達の集団からは百メートルくらい前を離れて集団下校している。
両脇には携帯アーミーのメガネっ子と元万引きガールの節陶子。
その後を七、八人のカワイイ女子がついてくる。多くはくのいちのシンパか。やはりくのいちの指示で左右と後ろには男子生徒が付いている。
くのいちの前、すなわち先頭を歩く女生徒は……頭に『ヤンキー』と書かれたバンダナを巻いたヤンキー。本名は楊貴伊。あの楊貴妃にあやかって名付けられたのか。残念ながら名前負けしている。くのいちが指示を出す。
「いいかヤンキー。お前は通行人に片っ端からガンを飛ばせ。周りの奴らを近づけるな」
「わ、わかりましたくのいちさん。それで、もしあたしが不良達に絡まれたらどうするんですか?」
「その時は、ヤンキーよ神話になれ」
「神話になれって……あたしを見捨てるんですか?」
「『ヤンキーよ死ね』だとアニソンの歌詞として変だろう。神話になれ」
「そんなぁ〜」
ヤンキー、泣きそうな顔になる。
それを見てくのいちはいつものドスの利いた声をやめ、霊が取り憑いた様なか細い声で言う。
「大丈夫。ヤンキーちゃんは死なないわ。私が守るもの」
このセリフに思わず感動するヤンキー。くのいちも一応人心掌握の術は心得ているのか。それともこれは何かのパロディなのか。
「すみませーん、ちょっといいですかー?」
くのいちの約百メートル後方の強が率いる集団が、商店街に通りかかったところで、カメラクルーが声をかけてくる。一人は手にマイク、もう一人は撮影用のカメラを手にしている。一瞬身構えた強だったが、二人とも三十代の女性であるのに気付き安堵する。
それでもここは取り敢えず駅までは皆を安全に送り届けなければならない。強は二人組のクルーに軽く会釈をして通り過ぎようとする。
「今、ちゅくば市で一番カワイイ生徒さんを探しているのですが」
強の足がぴたりと止まる。そして振り向きざまにクルーの二人の女性を睨みつける。
「そ、そんな恐い顔をしないで下さいよ、そこのイケメンのお兄さん。私達、ちゅくばケーブルのスタッフなんです」
「テレビの下請けのプロダクションでござろう?」




