第197話 胸なし芳一
くのいちはミルクが五人力に襲われるのではないかと心配、いや、期待している。
琢磨は心配になってミルクにアプローチしていた。
「明日は僕が責任を持って家まで送るよ、ミルクちゃん」
琢磨も節陶子からアプローチを受けていたが、当然彼女を家に送って行くわけにはいかない。電気スタンドの閃光が琢磨の頭の中をよぎる。陶子のお願いは琢磨は丁寧にお断りしていた。
「ありがとう琢磨さ〜ん。でも私なら大丈夫だよ〜」
「いや、ミルクちゃんは町内で一番カワイイ!」
「私なんか全然可愛くないよ〜……って町内? せめてちゅくば市北東部一番とか〜?」
「ミルクちゃん、自分が標的にされるかもっていう自覚はある?」
女子の『あの子カワイイね』とか『私なんか全然可愛くないよ』なんていうセリフは作者は全く信用していない。ミルクも『私なんか〜全然可愛くないよ〜』なんて言っていたが、本音はどうなのだろうか? それは彼女の次のセリフで証明される。
「私が標的になればいいんでしょう?」
口調はいつになくシリアスだ。
「そんな事は僕がさせない!」
「琢磨さん、いいの。私その五人力とかいう人を始末したい」
「始末って」
「遊び半分なメールを回してちゅくば市の自称カワイイ女子を恐怖に落とし入れる人を私は許さない」
この怪しげなメールが回ってきて、恐怖どころか大喜びした手裏剣女もいたはずであるが。
「分かった。だったら二人でその五人力とかいう奴を退治しよう」
「私一人で大丈夫よ」
ミルクの表情には何とも言えない迫力が伺える。
「じゃあ僕もできる限り協力するから、明日はその準備をしよう」
「分かったわ。ありがとう、琢磨さん」
ミルクと別れた後、部室に一人残る琢磨。手には何故かチェーンソーを持っている。
「もしミルクちゃんを危険な目に遭わせる奴が居たら僕はただではおかない」
琢磨のチェーンソーが怪しく光り、刃がギュルルルと回転する。
やはりアニメ化を意識した場合、人気作にあやかって手には包帯よりもチェーンソーの方が良いかもしれない。いや、著作権的には良くないかもしれない。
翌日。三校統一テストの結果が公示される。五科目の試験で琢磨はトップの四百九十九点。英語の九十九点以外は全て満点だ。
琢磨とミルクは一足早く、部室の隣の給湯室で何やら秘め事をしていた。
放課後のガーディアンデビルズの部室の前の廊下。いよいよ五人力の脅迫メールの決行日時なのか? 校内には緊張した空気が漂っている。
チョコは多数の携帯アーミーとその他自称カワイイ女子達を連れている。
ヒッキーとくう子を両腕でガードするのは、おもり役を引き受けた強。くのいちの両脇には携帯アーミーのメガネっ子と、自宅までのエスコートを取り付けたピッグテールの節陶子。
節陶子はくのいちへの貢ぎ物として香水の瓶を手にしている。
一方のメガネっ子はくのいちへの責め具としてフランクフルトを手にしている。隙あらばくのいちのいろんなところに突っ込んで、喜びを与えようとしているのだ。
皆が部室に入ると琢磨とミルクがいる。ミルクは何故か半袖短パンの体操服。琢磨はミルクの体じゅうに筆で何やら書き込んでいる。
くのいちと強は部室に入るなり、琢磨とミルクの異様な光景に驚く。
「ちょっと、あんた達何やってんの?」
「あ、くのちゃ〜ん。今琢磨さんに魔除けの呪文を書いてもらってるんだよ〜」
「何だよ魔除けの呪文って? そんなのやめてとっとと一緒に帰ろうぜ。ほら、琢磨もちゃんとミルクを連れて行けよ」
「強君。相手は五人力。どんな力を持っているのか分かりません。僕はミルクちゃんの体に魔除けの呪文を書き込んで、魔物がミルクちゃんを見えない様にしたいのです」
「琢磨、ここは現実世界なんだ。ダイブの仮想現実じゃないんだぞ。そんなものに何の効き目があるんだよ」
「ミルクちゃんが、『何の心配も要らない、私一人で大丈夫』って言うからせめて僕にできる精一杯の事をしようかと」
「私、放課後は部室に残って統一テストの復習をするね〜。間違えた所を勉強し直したいから〜」
くのいちはミルクの体をしげしげと見つめる。
「ふ〜ん。手足顔にも呪文が書いてあるんだ。ちゃんと耳にも書いてあるんだね。これじゃあ『耳なし芳一』みたく魔物に耳をちぎられる心配は無いね」
「私が五人力に狙われるはずないから〜どのみち心配はないよ〜」
「ねえ琢磨」
「何ですか、くのいちさん」
「ミルクの胸には呪文は書き込んでいないの?」
「そ、それは……どうしようかミルクちゃん」
「琢磨さんに任せるよ〜」




