第196話 怪文書、全校に出回る
「テストの結果発表の日の放課後にカワイイ子をさらいに来る、という意図がはっきりしないのですが」
と琢磨。
「確かに琢磨君の言う通りだ。しかし明日の放課後は、一応それらしい女生徒には集団で下校する様に促して欲しい」
「可愛くない子は単独で下校してもいいんだよね、校長?」
とくのいち。
「Beauty is in the eyes of the beholder」
と珍しくミルクが英語で言う。
「カワイイかどうかなんて〜見る人次第だよ〜」
「ミルクはカワイイからね。真っ先に狙われちゃうかもよ」
(願望のこもったまなざし。これでいてヒロイン)
と言って牙をむき爪を立てるくのいち。彼女は昨日強と楽しい放課後を過ごした事で、この怪文書の意味など半ばどうでも良くなっているのだ。
「私なんて全然可愛くないよ〜。明日は安心して下校するね〜」
くのいちはちょっと面白そうに微笑む。一方の琢磨と強は心配そうな表情を見せる。
「(ミルクを誰か守ってやらないのか? 琢磨がいるから余計なおせっかいかもしれねえが)」
と強。
「(今回こそ、僕が主役だ! ミルクちゃんは僕が守る! 今度失敗したら僕を待ち受けるのは電気椅子)」
「チョコ、お前はどうするんだ?」
「携帯アーミーのメンバーで集団下校のチームを組むよ。もちろんそれに加わりたい人もどんどん入れる。男子生徒にも協力を頼む。何にせよ女子は一人では下校させない方がいいかもね」
「教師陣も下校時の見回りに何人か参加してもらうつもりだ。みんなよろしく頼む」
「この五人力からの怪文書は生徒全員に知らせなきゃダメだよね、校長?」
とチョコ。
「あと一日しか時間が無い。学校からも全校生徒に連絡はするが、税所君の方からも連絡してくれると助かる」
「ガッテン承知!」
かくしてこの怪文書メールの情報は全校生徒に知れ渡ったのだ。
このミーティングに終始耳を傾けていた松戸彩子。
「(私のセリフが一言しかなかった。このままでは私の存在自体がハブかれてしまいそうだわ。何とかしないと)」
……完全に外野的な思考である。五人力も怪しいムンク少女の前は素通りか?
その日の昼休みに、学食のカフェテリアで早速くのいちは節陶子からアプローチを受けたのだ。これは前述の通り。
くのいちは節陶子との話を終えた直後にも携帯アーミーのメガネっ子からアプローチを受けた。
「せんぱーい!」
と大声を発しながらくのいちに全力で突進して来るメガネっ子。彼女はジャンプしてくのいちに飛びついてコアラの様に抱きつき、唇を奪う。
「(もう、好きにして)」
と悟りの境地のくのいち。さすが彼女となんちゃって三塁打を経験済みだけの事はある。
「先輩、明日の下校時は私、先輩にしがみついて離れませんから!」
「それじゃあ前が見えないわよね。私の左手はまだ予約が埋まっていないから、そこにつかまって帰ろうよ」
となだめるくのいち。
一方の強はヒッキーからアプローチを受けていた。
「強、明日の件で折行ってお願いが」
「おうヒッキー。お前、学園で一番カワイイからな。俺にボディガードを頼みたいんだろ?」
「ならば拙者と一緒に下校してくださるのでござるか?」
「お前一人でも大丈夫じゃねえか?」
「それが、くう子が心配なのでござるよ」
「あいつには必殺技『ざんぱんち』があるだろ?」
「左様でござるが、相手は五人力。用心に越した事は無いでござる。くう子は『あたしは大丈夫。何かあったらヒッキーが守ってくれるよね』なんていう無茶振りをしてくるのでござる」
(最近出番の少ない強。主人公なんだから働け)
「俺はお前らカップルのおもり役か」
「失礼は承知の上でお願いしているのでござる」
「構わないぜ。その代わり、今度の休みにでもお前の家でゲーミングラボを見せてくれよ」
「誠にかたじけない」
強はこのすぐ後にも節陶子からのアプローチを受けたが、彼女の『自宅までのエスコート』はやんわりと断った。皆を駅まで送り届けた後も一応学校周辺を見守る必要があると考えたからだ。そのため彼女は昼休みに学食でくのいちを見つけて、何とか取り引きにこぎつけたのであった。
強はヒッキーとくう子をガード。くのいちは節陶子とメガネっ子の携帯アーミーを守る事になった。




