第194話 陶子(とうこ)の駆け引き
意地悪なくのいち相手に陶子の駆け引きは成功するのか? 恋愛感情も絡めた交渉術でくのいちに挑む陶子。
翌日の学校。昼休み。くのいちが学食のカフェテリアで食事をしている。大きなあくび。少し眠そうにしている。今日は校長の命令で早朝からガーディアンデビルズの集まりがあって早起きしたのだ。
そこに一学年上の大人びたピッグテールの女性がトレイに食事を載せて近づいて来る。
「くのいち、元気?」
声をかけたのは節陶子。母親は魚池大学法学部出身の凄腕弁護士。当の陶子はグレていて一時は万引きなどしていたが、ミルクの尽力で立ち直ってきた。母親が魚池絡みの訴訟を担当していて、百億以上の金が動いている様だ。その件でくのいちは彼女に少なからず嫉妬している。
「元気かって? あんたをさらって身代金をあんたの母親に請求できるくらいには元気だよ」
以前くのいちは陶子の首を絞めて誘拐しようとした事がある。勿論これは陶子のわがままをたしなめるための脅しであったが。あの時は強にスカートを捲られて阻止された。水色と白のストライプのパンツをみんなに見られた……がそんな事はここではどうでもいい。
「私は知ってるよ。くのいちがそんな事(誘拐)する人じゃないって」
「あんた、人間観察力甘いね」
「ねぇくのいち、明日の放課後の件なんだけど……」
「あたしと一緒に下校して欲しいの?」
しおらしくコクリとうなづく陶子。
「ふーん、あんた自分が一番カワイイと思ってるんだ(笑)」
と意地悪なくのいち。
「(笑)じゃないわよ!……そりゃ、私達はカワイイというよりは美人ってタイプだけど」
流石切磋琢磨を陥落させた事のある陶子である。言う事が堂々としている。しかしくのいちも負けじと応戦。
「あたしはカワイイ路線でもいけるよ」
くのいちは強に一番カワイイと思われたから誕生日に色々してくれた、と信じ込みたいらしい。
「『学園で一番カワイイ』なんて、主観の問題でしょ。たまたま五人力とかいう奴にそう思われてたらヤバいじゃん」
「心配なら校門にタクシーでもハイヤーでも呼び寄せれば? 金はあるんでしょ、陶子?」
「明日はタクシー、ハイヤーの配車は無理だって。何でも美人プロゴルファーが近くのカントリーにツアーで来るから、観客達の予約で一杯らしいの」
「わかったよ。校門から駅まででいいんだね」
「その、できれば私の自宅まで」
「うげっ、めんどい」
「ダメなら剛力強にお願いするわ」
「明日は強も忙しいんじゃないかな?」
「牛丼大盛り、生卵お新香サラダ豚汁牛皿付きだったら? 私が自ら紅しょうがを上に乗せてあげてもいいわ。七味唐辛子もかけてあげちゃうよ」
「そんなんで強は動く?」
「ぐぬぬ……分かった。体で払う」
そう言うと陶子はブラウスの第三ボタンまで外していく。
慌てるくのいち。
「ちょ、ちょっと! あたしそういう趣向は無いから!」
「あなたに払うんじゃないわよ」
とちょっと挑発的な視線をくのいちに投げかける陶子。
「分かった。明日はあんたの家まで付き合ってあげる。ただ、駅までは他にもギャラリーがいるからね。あたしのそばを離れちゃダメだよ」
「ありがとうくのいち」
「ただ一つ条件がある」
「何よ?」
「あんたの着けている香水、どこで手に入るか教えなさいよ」
それを聞いてにっこりする陶子。
「OK。取引成立ね」
「成立じゃない。これは貸しだからね」
陶子は明日一緒に下校してくれる人を他にも探していたのだ。しかし琢磨や強には『他に仕事があるから』と自宅までのエスコートはやんわりと断られていた。あとはくのいちくらいしか頼めそうな人はいなかったのだ。『強には体で払う』と匂わせてみたのも、もちろんハッタリだ。断られていたのだから。
くのいちもそんなのは当然ハッタリと思っていたが、万が一にも強に陶子から変なアプローチがあっては困る、と考えたのだ。(実際陶子はその色香で琢磨を陥落させている。これはくのいちの知らない事ではあるが)。
陶子の作戦勝ちか。彼女はどうすればくのいちを動かせるのか計算していたらしい。駆け引きの才能は敏腕弁護士である母親譲りの様だ。




