第192話 放課後、体育倉庫に来て♡
明くる日。主人公の剛力強。彼は朝登校すると、くのいちから変なメールが来ている事に気づく。
『今日の放課後、楽しみにしてるよ。体育倉庫で待ってるね くのいち』
強はこのメールを受け取ってから頭がモヤモヤしていた。何なのだ、これは。俺が何か法律に触れる事でもしたのか? いや、家賃の滞納はない筈だ。
やはり不安が頭から離れない。くのいちとはクラスが違う。午前中は体育や移動教室で強はくのいちとは直接会えなかった。昼休みになってトイレに駆け込み、くのいちに電話をする事にした。いい知らせである筈はないのだが、放っておくのも余計にまずい気がする。
「あ、強! お電話ありがとう♡」
彼女は部室の隣の給湯室で布団を敷いてくつろいでいた。こんなラブリーな口調のくのいちは初めてである。母親に毒でも盛られたのか?
「くのいち、さっきのメールの件なんだけど」
「分かってるって。五時間目の授業が終わったら速攻で体育倉庫に来てね」
「お前一人か? 琢磨とかミルクは連れて来ないのか?」
「そんなヤボな事するわけないじゃないの」
「武器は無しでいいんだな?」
「なんで武器が必要なのよ。あ、でも強が望むなら髪飾りの手裏剣は外しておくね」
電話はそこで切れる。嫌な予感しかしない。松戸彩子ちゃんにお祓いでもしてもらおうか?
くのいちの様子は明らかにおかしい。あり得る可能性は何だ? ……そうだ、この作品はラブコメなのだ。典型的なパターンとしては、誰かがイタズラでくのいちにラブレターを書いた、とか? 差出人は俺という事にして。
そんな事しそうな人物に電話をかける強。
「もしもし〜グッドアフタヌ〜ン」
「おうミルク、早速なんだが今朝からくのいちの様子が変なんだ」
「いつも通りって事だよね〜」
「もしかしてお前、俺を担いでないか?」
「『担ぐ』って肩に乗せるっていう意味だよね〜。強君は私にお姫様抱っこをしてくれたことはあるけど〜私が強君を担いだ事は無いよね〜」
「お前じゃないとすると犯人はチョコか?」
「さっきから何の話〜?」
強はかくかくしかじか説明する。
「チョコがそんな事するわけないよ〜だってさぁ」
「だって何だよ」
「ううん。何でもな〜い。でもさ、強く〜ん」
「何だ、ミルク」
「『俺を担いでないか?』よりも〜『俺をハメようとしてないか?』の方が〜しっくりくるよね、この場合〜」
ミルクの戯言はさておき、これはくのいちとじっくり話すしかなさそうだ。
「(あのメール、くのちゃんにも回ってきたのかなぁ? でもそれとは全然関係なさそうだよね〜)」
放課後。くのいちが気配を消して体育倉庫に入ってくる。するとそこには体育マットの上で正座をしている強が先に居る。
「強―、お待たせー。ねぇ、これからどこに連れて行ってくれるの?」
「くのいち、俺が何か悪い事をしたのなら謝る。しかしお前の言っている意味がさっぱり分からん」
「謝る事じゃないでしょ。あんなメールくれるのって強くらいしか思い当たらないもん」
「メール? もしかして今流行りのなりすましメールでおれの名前を語ってお前に変なメッセージを送った奴がいるとか?」
「えっ、あのメール強からじゃないの?」
「どのメールだよ」
くのいちは強にメールを見せる。ミルクにも回ってきたやつだ。
『ちゅくば市随一の学園の一番カワイイ人をサライに参ります。決行日時は学園で一番大事なイベントの放課後です。五人力より』




