第188話 ミルクが和訳できない英文を出題したい
lake Omanの曲は初音ミクもカバーしている由緒正しい楽曲だ。つい最近までlive damでカラオケで歌う事もできた。しかし令和7年になってから収録削除されている。作者の人生の楽しみが一つ減ってしまった。
一部の生徒からは『おおっ』とどよめきの声。
「完璧れす、ミルクさん」
「ありがどうございま〜す」
「(ここまで完璧に答えられると、私の教師としての地位が危うくなるのれす。実際、一部の生徒からは『英語の授業はミルクちゃんにやってもらいたい』なんていう声も上がっているのれす)」
「それでは次の英文に行きましょう。来年の修学旅行はカナダです。そこでみんなにはカナダの地理を知ってもらう為の例文を訳してもらいます」
『I want to enjoy observing lake Chin and lake Oman.』
今度は違う意味でクラスの一部からどよめきが走る。
「『observe』は『観察する』という意味れす。『enjoy』は『楽しむ』という意味で、それにつながる動詞は『enjoy to observe』ではなく『enjoy observing』となる事は試験によくでるのれす」
一応、英語の授業風にもっともな事を言うイツワ先生。
「さあ、森野ミルクさん、この英文を大きな声で和訳してくらさい」
「わ、私が和訳するのですか……」
「そうれす」
「私は……二つの湖を観察する事を楽しみたいです。それは……」
「それは?」
「湖チンと湖オマンです」
「なんか翻訳が硬いれすね。もっとはっきりと言ってくらさい!」
「オマン……」
赤くなってうつむくミルク。ここで授業終了のチャイムが鳴る。
「この続きは次回の課題とします。ミルクさんもしっかり勉強してきてくらさい」
イツワ先生は心の中でガッツポーズ。
「ミルクちゃん、ゴングに救われたな」
「次回の授業が楽しみだね」
「仁希先生、補習はやらないのですかー?」
との生徒達の声が聞かれる。
これは一種のプロレス芸なのだ。魚池高校では生徒による教師への評価がされる。イツワ先生は非常勤講師でありながら生徒達によるアンケートでぶっちぎりの一位を独走している。ミルクも恥ずかしいやられ役を半ば楽しんで享受しているのだ。
職員室でたまにイツワ先生と雑談をするミルクは、その会話から次回のテストの肝をなんとなく把握できてしまう。それをたまにガーディアンデビルズの裏アカ放送で流して生徒達からも好評を得ている。
ちなみにlake Omanをネットで検索すると、その衛星写真や位置情報といった項目までもが表示される。とんだ悪ノリだ。しかしlake Chinを検索しても内容はあっさりしている。lake Chinは自分のを検索するしかなさそうだ。
授業の後も笑顔と愛嬌を振り撒いていたミルクだが、放課後になると少し表情が厳しくなる。
「あれ、ミルクちゃんどうかした?」
と声をかけるクラスメイト。
「私これから部活だから〜」
そう答えて何やらぶつぶつと独り言を言いながら部室に向かうミルク。何やらガーディアンデビルズの大切な用事がある様だ。




