第185話 第3部エピローグ① 何一つリスクなど背負わないままで
「ミルク! こんな時間にごめん」
「大丈夫だよチョコ〜。私もなんか目が冴えちゃって〜暇つぶしにビデオ観てたとこだよ〜」
「どんなビデオ?」
「どう見ても二十八歳くらいの女の人が〜なぜかセーラー服を着ていて〜、男の人と楽しい事をするんだよ〜」
「楽しい事?」
「なんかお部屋が暑かったらしくて〜、女の人はセーラー服を脱いじゃうんだよ〜」
「そ、それでどうなるの?」
「それがさ〜聞いてよチョコ〜。セーラー服の下はいきなりブラなんだよ〜。普通キャミソールくらい着てるでしょ〜?」
「なんか身につまされた。その話はやめて」
「それで、用事はな〜に?」
「いや、それが……あたし今ちゅくば山を登っているところなんだけど、ちょっと心細くなっちゃって」
「こんな真夜中の丑の刻に何て事をしてるの〜?」
ミルクは既にチョコの目的を看破している様子。
「一人だと怖いんだ。ミルク、一緒に来てくれない?」
無茶な頼みなのは十分承知だ。でも口に出さずにはいられなかった。
「チョコは何かの見返りを求めてこんな丑の刻に霊験あらたかなちゅくば山神社に登ろうとしているんだよね」
ミルクの口調がちょっとシリアスに変わった事に驚くチョコ。
「そ、そうだけど」
「何一つリスクなど背負わずに何かを叶えたいなんて虫が良すぎると思わない? お子様向けの魔法戦隊アニメじゃないんだから」
「ごめんミルク。あたしが間違っていた。もう少し頑張ってみる」
「私もチョコに付き合ってあげる事はできるよ。でも丑の刻のお参りって途中で誰かに見られたら効き目がなくなるはずだよ。それで肝心の藁人形と五寸釘とカナヅチは持ってきたの?」
「彩子から借りた。古門の髪の毛も彼女から手に入れた」
「チョコ、本気なんだね。私が今からそっちに行ってあげてもいいよ」
「ありがとうミルク。人に見られちゃダメだから一人で行くよ」
「大丈夫だよチョコ。だって……」
「だって?」
「だって私、人じゃないから」
電話はそこで切れる。
頭の中が一瞬真っ白になるチョコ。言い様の無い寒気を覚える。
『リスクを負わずに何かが叶うはずなどない』というミルクの言葉がチョコの心の中で反芻される。『私、ヒトじゃないから』という言葉もチョコの心臓を締め付ける。
「これが試練なのね」
恐怖を振り払う様に歩を進めるチョコ。そこに携帯が鳴る。思わずビクッとするチョコ。ミルクからだ。チョコは応答のスイッチを押す。
「な〜んちゃって〜」
通話はそれだけで切れる。ミルクの『な〜んちゃって〜』は掴みどころが無い。
ともあれ何とか山頂の神社にたどり着いたチョコ。懐からおもむろに『古門劇代』と書かれた藁人形と五寸釘、カナヅチを取り出す。ちなみに写真は昼の神社。
「憎い、憎い、憎い! 古門劇代、くたばれ! くたばれ! くたばれ!」
そう言って藁人形を古木に押し付け、五寸釘をガシガシと打ち込む彼女。
「カナヅチじゃ物足りない!」
そう言ってチョコは背中からバットを取り出し、釘の刺さった藁人形の上からバットでボコボコに打撃を加える。
『メリメリメリ……ボキボキボキッ……ガッシャーン!』
音を立てて古木は倒壊する。バットで木を倒せるものなのか。やはり武器を持ったチョコには気を付けた方が良さそうだ。
別の木に藁人形を打ち付けようかと考えるチョコ。しかし『古門劇代』と書かれた藁人形を証拠としてこの場に残すのはまずいのではないか? 人形の中には古門の毛髪、そして表面には人形を握りしめていたチョコのDNAがたっぷりと付着しているはずだ。
チョコは藁人形その他の証拠品を懐に納め、その場からバックれる事にする。
次回はいよいよ第3部の最終回です。




