第182話 一人、また一人と現れる証人
古門先生が何故彩子の自撮りのSNSの写真を削除させたかが明らかになってゆく。
「私は生まれも育ちも茨城県ちゅくば市です」
「そうなんだ〜。偶然だね〜。私もちゅくば市だよ〜」
「あなたはイギリスからの留学生だと聞いたけど」
「イングランドのチュキューバシティの生まれだよ〜」
ミルクのネイティブな発音に恐れ入る古門。
「そうだったのですね」
「今ごろ市立公園では桜が満開だろうね〜」
「そうですね。私も早くここを出て、ちゅくば市のレストランで美味しい物でも食べたいです」
「そう言うと思って〜、特別なご馳走を用意したよ〜」
ミルクは持ってきた岡持ちからカツ丼を取り出して机の上に乗せる。
「そ、それはもしかして……」
「ちゅくばの名店『丼旧』のカツ丼だよ〜」
「あの、週末は行列必至の幻のカツ丼! いただきます!」
カツ丼をぱくぱくと食べる古門。
「私の好きな物はお見通しなんですね」
「もう一つ、あなたの好きな物を用意したよ〜」
ミルクが携帯で合図を送る。するとコスプレをした沢山くう子が取調室に入ってくる。
古門は驚く。
「あ、あなたは……」
「私は美少女戦士クコリーヌ。今日は古門先生の為にアイテムの直売に参上したのだ!」
チョコが口を開く。
「クコリーヌの腕に巻くバンダナ、特徴的だよね。折り畳んだ扇子がついているし」
「この前は古門先生のリクエストで特別にバンダナを二つ譲ってあげたのだ。今度は何が欲しいのだ?」
古門は無言。
「このアイテム、まだ非売品だから持っているのはあんただけなんだよ」
「マスター、私が自作した可能性は?」
チョコは古門を睨みつける。
「あんたならそう言うと思った。じゃあ次の写真を見せるよ」
ノーパソの画面に次の写真が映る。腕を組んでモールの中を歩いている仲睦まじき男女。二人とも帽子にマスク。そして腕にはお揃いのクコリーヌのバンダナ。
「あんたはバンダナを二つ手に入れた。もう一つはこの男にあげたんだね」
「それってマスターの推測ですよね」
「古門ちゃ〜ん、そろそろ諦めちゃったら〜? いつまでもしらばっくれていると罪が重くなるよ〜」
ミルクは携帯でサインを送る。するとそこに池面君が入ってくる。
「こんちは。古門先生にミルクちゃん。お、くう子も一緒か」
古門からはさすがに焦りの表情が伺える。
「池面く〜ん。メガネ少年魔法使いのアトラクション、もう少し待ってくれないかな〜? 来年の遠足は大阪だよね〜。自由行動の時にチャレンジしようよ〜」
「俺はまたミルクちゃんに嵌められたのかよ」
「池面、あんたがここに召喚された理由は分かるよね?」
とチョコ。池面も白いカプセルに入ってこの世界にダイブしているのだ。
池面はノーパソの画面を見つめ、全てを理解する。
「ああ、この写真は俺と古門先生だ」
そう言ってワイシャツの袖をまくり上げる池面。上腕には例の扇子のついたバンダナが巻かれている。
「俺がスマホゲーム『クリスタルメイズ』の大ファンだという噂を古門先生も聞きつけていたんだ。それでヒロインのクコリーヌのバンダナを俺にプレゼントしてくれた。俺が欲しそうにしていたのが悪いんだが」
「池面く〜ん。クコリーヌなら目の前にいるじゃな〜い。直接バンダナを貰えなかったの〜?」
クコリーヌのコスプレをしているくう子が答える。
「こいつにはアイテムは譲れないのだ! こいつは甘い物食べ放題をエサにして私を旅館におびき寄せ、私を大股開きにしようとしたのだ!」
「背面駅弁の件は謝る。クコリーヌ。許してくれ」
「こら、具体的なポジションを口にするな!」
「そういえば最近、俺もクリスタルメイズの攻略が上手くなったんだぜ。クコリーヌの剣を奪って素手で戦える様になったんだ。見てくれよ」
そう言ってスマホを取り出し、画面を見せる池面。
「貴様、バーチャルの世界でも背面駅弁を制覇しようとしているのだな、許せん!」
「誤解だくう子。これはちゃんとした駅弁だ」
「問答無用、ざんぱーんち!」
池面、吹っ飛ぶ。
ミルクの道具屋のモニターで、取調室のやり取りを聞いているくのいち。
「(背面駅弁なんてものがあるんだ。この前ツバメ返しっていう用語を覚えたばかりなのに。まだまだ勉強不足だわ)」
彼女は携帯にメモを取る。また後でAIのおsiriちゃんにイジられそうだ。
場面は再び取調室。
「バンダナのお礼に俺と古門先生はショッピングモールでデートした。この写真はその時の防犯カメラか何かの映像だろ?」
「私はこの世界のマスター。私の情報網を駆使すればこの程度の画像の入手は朝飯前だよ」
チョコのハッタリが冴えまくる。当然画像は割井校長のツテでショッピングモールの『魚池ドラッグズ&コスメ』の防犯カメラから入手したのだ。




