第181話 古門劇代への取り調べ
彩子の飛び降り未遂を巡って、古門先生を仮想現実の世界で尋問するチョコ。しかし古門先生はそう簡単には本音を言わない。こういう時、昔の刑事ドラマだったらどうするのだ? いや、このお決まりの展開は昭和世代以外の読者には意味不明か?
「チョコ、一人で古門先生の所に行くの〜?」
「まずはあいつとサシで話がしたい」
そう言って首に下げた金属バットのペンダントに手をやるチョコ。ダイブの世界ではそれはバットや剣に変型できるのだ。
「あの古門劇代がチョコのバットで怯えるところ、見てみたいわね」
とちょっとサディスティックな笑みを浮かべるくのいち。彼女も古門に恨みがないわけではない。
チョコはノーパソを手にドアの外に出ていく。それを見送るメンバー達。ミルクの道具屋に居る彩子にくのいちが問いかける。
「あんたはチョコと一緒に行かなくていいの? 古門にたっぷり仕返しができるかもよ」
「私の心の中で、既にあの先生は他界しています。ただ私はあの人の心の中を知りたいだけ」
「取調室の中は画像と音声がモニターされているから〜、みんなで見学しようよ〜」
ミルクの道具屋を出たチョコ。外に出るとすぐ目の前が古門先生の居る取調室の小屋になっている。ドアを開け中に入る彼女。
「私はどうしちまったんだい? ここはどこ? 演劇を観た後の事は余り覚えていないんだけど」
チョコが答える。
「ここはあなたの精神世界。私はこの世界のマスター。ここからはあたしのルールでやらせてもらうよ、古門劇代」
「あなたはこの学校の生徒だよね?」
そう言う古門劇代にチョコがピシッと言う。
「口のききかたに気をつけなさい。私はあなたの生徒ではないわ。マスターとお呼びなさい」
チョコは手にしているバットのペンダントを頭上でクルクルと回す。ペンダントは金属バットに変型する。
「わ、分かりました。マスター」
チョコは得意のハッタリで古門先生を完全に支配下に置いた。
「今日、あなたを召喚したのは他でもないわ。私達の仲間の松戸彩子ちゃんの事で聞きたいことがあるの」
「ああ、なんか飛び降り騒動があったとかいう……」
「彼女の自殺未遂に何か心あたりはないの?」
「私が原因で松戸さんが自殺未遂をしたとでも言うの?」
「古門劇代、口のききかた!」
チョコはバットのグリップエンドのスイッチをカチリと押す。バットはチョコレート色の剣に変型する。
剣の先端を古門の喉元に突きつけるチョコ。
「す、すみませんマスター。私には心あたりなどさっぱり」
「彩子ちゃんは演劇部を退部してから、精神的に参ってしまったのよ」
「それが私とどう関係するのですか、マスター?」
「彩子ちゃんが退部した理由は分かるわよね?」
「分かりません」
チョコは古門の顔にすっと剣を振るう。顎から少量の出血。
「ま、松戸さんは我が校にふさわしくない格好でショッピングモールをぶらついていました。しかもそれを自分のSNSにアップしていました。私はそれを削除する様に彼女に指導しました。それだけです、マスター」
チョコはノーパソを開く。そして例の写真を画面に映す。彩子が横ピースサインをキメているやつだ。
「『我が校にふさわしくない格好』って言うけど、これは松戸さんの私服なの。休日に私服でショッピングモールに行くのは問題ないんじゃないの?」
「私服にしても、ちょっと衣服が乱れていますよね。私は教師としてそれを注意して、写真を削除させました。何故この写真が残っているのですか、マスター?」
「私はこの世界のマスター。これくらいは朝飯前さ」
とまたもハッタリをかますチョコ。
「あんたはそれにかこつけて、演劇部の全国大会『演劇甲子園』の出場を辞退させた。部員のみんなは物凄く悔しがっていたよ」
「演劇甲子園の辞退は私にとっても苦渋の決断でした。あの時は部員の一人から流行り病が発生して、辞退を余儀なくされたのです、マスター」
「表向きの理由はそうだよね、古門劇代」
「辞退の件に関しては割井校長からも説明を求められました。校長からも特に問題点は指摘されませんでした」
チョコはノーパソの画面の写真の一部をアップにする。
「これを見て欲しいんだけど」
彩子の写真の背後に映る帽子にマスクの女性。
「これは古門劇代、あんただよね」
「この写真だけでははっきりしないですよね」
「この写真の左腕の所を見てごらん。バンダナが巻かれているよね」
「そうですか? それが?」
古門の態度に声を荒げるチョコ。
「いい加減ゲロしちゃったらどうなの!」
そう言って机を『バン!』と叩くチョコ。
そこに、出前の岡持ちを手にしたミルクが入ってくる。
「まあまあ、マスター。落ち着いて〜。ここは私に任せて〜」
チョコは席を立ち、そこにミルクが座る。
「古門ちゃ〜ん。あなたの故郷はどちらなの〜?」
出前の食べ物を入れる岡持ち、故郷の話。もうこれで岡持ちの中に何が入っているかは昭和の読者には分かってしまった。




