第177話 悪の組織の女幹部って、どうしたらなれるの?
第一部からの読者にはお馴染みだが、ミルクは電気スタンド使いである。スタンド能力の無い者にはその攻撃は見えない(事になっている)。万引き少女節陶子もその攻撃に屈服させられた。
そう言ってチャリリンと鳴らす悪の女幹部のミルク。どうやら彩子の父親の松戸博士先生は悪の組織の変な博士、という設定らしい。ハマり過ぎている。娘の松戸彩子はその組織から抜け出したという設定か。松戸博士先生は彩子を自殺から救ってくれたお礼に、強に電動式三輪自転車をあげた筈なのだが、ミルクが勝手に着服しているらしい。
「私は悪の組織だから〜、そこにいる正義の彩子ちゃんとヤンキーちゃんを倒さなくちゃいけないんだよ〜」
ヤンキーは早くも白旗を掲げて彩子の背後に回る。私生活ではヤンキーはミルクの毒牙に冒され、身も心もミルクの下僕となっているのだから仕方がない。自分より弱い相手にはとことん強気だが、強い相手にはとことん媚びる。見事な処世術だ。
「私には水晶玉の力がある。悪には負けません!」
と毅然とした態度の彩子。
ミルクは三輪自転車のカゴに入っている五十センチ程の電気スタンドを取り出す。それを振りかざし、彩子の頭をぽふぽふとスタンドの傘で攻撃する。
「うわぁーっ! 何、今の攻撃は? 全然見えなかった!」
「電気スタンド使い以外には〜私の攻撃は見えないんだよ〜」
ぽふっ、ぽふっ、ぽふっ。見えない電気スタンドを使われては、彩子の水晶玉も役に立たない。
「む、無念だわ。正義はここで敗れてしまうのね」
そう言って倒れ込む彩子。
自分を助けてくれた正義の味方が悪の女幹部のミルクに倒されて呆然とするヤンキー。
「何て恐ろしい力を持ってんだ、この女幹部は……だけど悪の組織にしては妙にほんわかしているな。なんか癒されてしまいそうだ。ミスキャストじゃねえのか?」
とヤンキー。
「なんか〜、友達が勝手に私のオーディションに応募しちゃって〜、仕方なく受けたら悪の女幹部役に合格しちゃったの〜♡」
悪の組織の女幹部ミルクのこのセリフを聞いて、それまで彩子の水晶玉の攻撃を受けて倒れていた黒づくめの覆面戦闘員が全員起き上がる。そしてミルクを取り囲む。
「ど、どうしたの悪の組織の下っ端のみんな〜」
戦闘員達が答える。
「私達は悪の組織のオーディションに応募したのに、覆面戦闘員の役しかもらえなかった。第一部の美少女戦士クコリーヌの劇でも、美少女戦士の仲間に入れてもらえずに、被り物の動物の役をやらされた」
「私達は勇気を持って自分からオーディションに応募したのにこんな役しかもらえなかった。だのにあなたは何もしないで女幹部の役を手に入れている。許せない」
「下っ端が逆らっちゃダメだよ〜。これは組織内部の反乱、クーデターなのね〜! 私の攻撃を受けなさ〜い!」
そう言って電気スタンドの攻撃をするミルク。
悪の組織の女幹部と悪の組織の下っ端の戦闘が始まる。一連の成り行きを唖然としながら見守るいいものヤンキー。
「あ、あたしはどっちの味方をすればいいんだ? 悪者同士の戦いだし……取り敢えずここに倒れている変なレインコートの正義の味方を心配するフリでもしていれば間違いないか」
と自分の立場を計算している。三角関数の計算はできなくても、自己保身の計算はしっかりできるらしい。
黒づくめの戦闘員六人と女幹部ミルクの戦いが続く。しかし電気スタンド使いのミルクの力に下っ端が敵うはずもない。ぽふぽふと攻撃され、次から次へと倒れていく下っ端達。
「ああっ、下っ端はやられるしかないのね……」
とその時、
「ちょっと待った!」
と客席からの声。皆が驚いてそちらに目をやると、くのいちが客席から舞台に飛び入りして来る。
「くのちゃ〜ん! 私の世界征服の野望を邪魔しないで〜!」
「悪が勝つ、なんていう展開はあたしが阻止する!」
くのいちはそう言うと、ヤンキーに声をかける。
「ほら、そこのヤンキー。さっさと彩子を起こしなさい! 正義の心を一つにして悪と戦うのよ!」
「くのちゃんって正義ぶってるけど〜、あなたも悪の組織の女幹部オーディションに応募してたじゃないの〜。一次予選であっさり落選してたけど〜」
それを聞いて、それまで電気スタンドの攻撃で倒されていた悪の組織の下っ端達が元気を取り戻す。
「オーディションで落とされたからと言って、落ち込んでいてはダメなんだわ。私達も合格した奴を倒さなくちゃ!」




