第176話 ペロブスカイト太陽電池
学園祭の演劇の続き。悪の組織から改造人間手術を受けながら、組織を裏切り正義の為に戦う彩子。自家発電と水晶玉の力で悪の下っ端達をやっつける。当然、話の流れとして、悪の幹部が登場するはずだ。
「今流行りの自家発電か。あたしも週に三回くらいは頑張るよ」
「あなたのはただの漏電でしょうが!」
「そんなに言うならその発電方法を見せてくれよ」
「私のムンクのレインコートには太陽電池が編み込まれているの。光を浴びて私はエネルギーをゲットしているのよ」
「すげえな、お前のレインコート。よく見せてくれよ……あ、襟にタグが付いている」
「お父さん、いえ、悪の組織の博士が作ってくれたのよ」
ヤンキーは彩子のレインコートの襟のタグを覗き込む。
「えーっと、成分表示が書いてある。合成着色料、合成保存料はいいとして……鉛、臭素……おいあんた、そのレインコート、あまり使わない方がいいぞ」
「これは私の大切な自家発電のアイテムなのよ」
「なんか体に悪そうな気がする。オシッコを飲んで健康を維持しているあたしが言うんだから間違いない」
さすがヤンキー。化学の知識はまるで無くても、『これは体に悪そうだ』というものを本能的に察知できるらしい……だったら未成年のくせにビールなんか飲むなよ。演劇だからオッケーだけど。
「ヤンキーのくせに健康には詳しいのね。分かったわ。取り敢えずここにいる悪者達を最初にやっつけちゃいましょう!」
彩子は水晶玉を頭上に掲げて腹話術を始める。
「僕は正義の水晶玉だ。僕の攻撃を受けてごらん」
「す、水晶玉がしゃべった!」
驚きまくる一同。
「どんな凄い攻撃をするんだ、この水晶玉は?」
とヤンキー。フラグが立ってしまった。
彩子は水晶玉を手にして、黒づくめの悪者達に『ゴン、ゴン』と攻撃を加える。
「うわーっ! 鈍器の様な物で殴られたあーっ!」
慌てふためく悪者達。
水晶玉の腹話術が応える。
「僕は『鈍器の様な物』じゃないよ。ドンキで処分品セールで売られていた物さ。はーっはっはっはっ」
ダジャレが冴えまくっている。今頃日本中の読者を爆笑の渦に巻き込んでいる事だろう。
ヤンキーに恨みを持っているリーダーも含め六人いた悪者達は全員、水晶玉によって倒される。ヤンキーは彩子を見直した様子。
「ありがとな、そこのムンクのコートを着た、頭にしめ縄でローソクを生やしている水晶玉を持った、『いいもの』のタスキを掛けた人。あんた、強いんだな」
「こんなザコキャラ、僕の力でフルボッコさ」
と水晶玉の腹話術。
「とにかく、助かったぜ。人を見た目で判断しちゃダメなんだな」
「そうだけど、君も路上で酔っ払ってオシッコなんか飲んじゃダメだぞ。あと、身だしなみにはもう少し気をつけた方がいい」
と水晶玉の腹話術。
「あんたに言われたくない」
と頭にバンダナを巻いたヤンキー。彼女と彩子との間で妙な連帯感が生まれた様だ。自家発電つながりか。取り敢えず正義は勝ったのだ。
とその時、舞台袖から声がする。
「なんか騒がしいわね〜、どうしたの〜?」
舞台袖から『チャリリン』と音がする。露出の高めなコスチュームを身にまとったミルクが電動三輪自転車に乗って登場する。
舞台からは『おおっ』という喝采。演劇第一部ではクコリーヌのコスプレ、そしてこの第二部ではミルクのお色気たっぷりの衣装だ。脚本担当のチョコとヒッキーは演劇には何が必要なのかをちゃんとわきまえている。
ミルクは『わるもの』と書かれた帯状の髪飾りを髪からさげている。
「お前は何者だ!」
と彩子は水晶玉の腹話術で問いかける。
「見れば分かるでしょ〜? 悪の組織の女幹部だよ〜」
「さすが悪の組織だ。ただの三輪自転車を見事に電動式に改造している」
と恐れ入るヤンキー。
「これは悪の組織の変な博士にもらったんだよ〜。通学にとっても便利なんだ〜」




