第175話 主役の彩子登場
ガーディアンデビルズの学園祭の演劇の続き。飲尿ヤンキーを拉致して改造人間手術を施そうとしている悪のリーダーは、以前池面君をめぐってヤンキーと本命の彼氏の座を取り合った恋敵であった。彼女は元の恋敵であるヤンキーを改造する気満々である。
「どうやらあなたは拉致には持ってこいの人間の様だわ」
「てやんでい! 矢でも鉄砲でも持って来やがれってんだ! ところで、世の中にはもっと悪い奴がいるだろう。何であたしなんだ?」
「表向きの理由は簡単。あなたが家族と上手くいってなさそうに見えたからよ」
「それが何の関係があるんだ!」
「そんな事も分からないの? あなたが行方不明になっても、どうせ家族は捜索願いなんか出さないでしょ。拉致には持って来いじゃないの」
「何て恐ろしい事を考える組織なんだ……ところで、お前さっき『表向きの理由は』とか言ったよな。裏の理由でもあるのか? チャリンコの違法改造のあたしのテクニックを教えて欲しいとか?」
「改造人間の技術を持つ我ら組織が、チャリの違法改造の技術を必要とすると思って? やっぱりヤンキーは頭悪いわね」
「ヤンキーだって頭のいい奴はいるかもしんねえだろ! 奇跡的に」
と虚しい抗弁をするヤンキー。
「頭の悪いあなたに裏の理由も教えてあげるわ。感謝なさい。あなたさえいなくなれば、池面さんが私に振り向いてくれるはずなのよ、きっと」
「お前、何わけのわかんねえ事を……ちょっと待て。お前の声、聞き覚えが!」
「ふふふふ。バレたとあっちゃあ仕方ないわね」
リーダーは黒い覆面を取る。以前体育倉庫にヤンキーから呼び出され、ヤンキーパンチを受けた女生徒である。この女生徒とヤンキーは池面君に二股をかけられていて、それに気付いた二人は池面君に見切りをつけたはずなのに。
「お前、あの時の!」
「池面さんが、あんたみたいなバカヤンキーを好きになるはずなんて無い! あなたさえいなくなれば彼もきっと私を本命にしてくれるはず」
散々バカ呼ばわりされて反撃に転じるヤンキー。
「お前、あたしの事をバカと思ってるんだろうが、あたしには凄い技があるんだぞ!」
それを聞いて顔を赤らめる悪の組織の下っ端軍団のリーダー。
「凄い技……まさかあなた口には出せない様な凄いテクで池面さんを……」
「ふっふっふっ。そのまさかだよ」
「これは学園祭の演劇なのよ! 客席には割井校長先生もいるのよ!」
ヤンキー、客席に向かって大声で呼びかける。
「今のはお芝居でーす、校長先生」
客席の割井校長は笑顔で手を振る。隣には古門先生も居る。
「テクの詳細は後でじっくりと聞き出すとして、おとなしく改造手術を受けなさい!」
「おまわりさーん!」
と叫ぶ哀れなヤンキー。
「ヤンキーがサツなんか呼ぶなよ! ダチ公に笑われんぞ!」
女生徒はなかなか悪役ぶりが板に付いている。池面君の恋のライバルだったという個人的恨みがあるせいか演技に説得力がある。
ここまでの流れを整理しよう。通りすがりの哀れな飲尿ヤンキーは黒づくめの悪の組織に拉致されようとしているのだ。しかも悪の組織の下っ端軍団のリーダーはヤンキーに個人的恨みがあるらしい。自分のカレシの池面君を取られたとか何とか。
その時突然不気味な音楽が流れる。一同、何事かと辺りを見回していると主役の彩子が登場する。頭には電池式のろうそくが生えている冠。黒いマント。
「皆の者、控えおろーう!」
時代劇調の声を張り上げる彩子。彼女のサイコないでたちにドン引きする一同。彩子は悪者達に捉えられているヤンキーに近づく。
「そこのヤンキー、大丈夫?」
ヤンキーは目を逸らせ、答えようとしない。
「いくらバカでもこれくらいの日本語はわかるでしょう? 大丈夫なの?」
やはりヤンキーは目を逸らせて返事をしない。
「あなた、わざと私を無視してやり過ごそうとしていますね?」
「はい」
と答えるヤンキー。
「『はい』じゃないでしょ! ここは『そんなつもりじゃ』くらい言うところでしょうが! ……もしかしてあなた、私の事を変な危ない女とか思ってるの?」
「お前、超能力者なのか?」
「『こんな奴に関わるくらいなら、改造人間にされた方がまし』とか思ってるんでしょう!」
「お前、超能力冴えまくりだな」
「あぁ、また超能力を無駄な事に使ってしまったわ。私は怪しい者ではないわ。正義の味方なの。タスキに『いいもの』って書いてあるでしょ。以前、悪の組織に捕まって改造手術を受けたのだけど、組織を抜け出して今は正義の為に奴らと戦っているのよ!」
「どんな改造手術を受けたんだ?後々の参考になるかもしれないんで聞かせてくれ」
と『いいもの』のタスキを掛けているヤンキー。
「あなた、改造人間手術を受ける気満々じゃないの! 私は自然エネルギーを電力に変換できるパワーを身に付け、強い子になったの!」
あと数話でこの演劇のパートは終わって、最後のクライマックスから第3部のエンディングとなります。演劇のパートが終わったところで一旦本作の毎日の連載は休止します。




