第174話 学園祭の演劇 第二部
学園祭当日。ガーディアンデビルズは演劇のパフォーマンスをしている。演劇の第一部の主役はくう子ことクコリーヌと悪役の割井校長であった。第二部の主役は?
約一ヶ月後。魚池高校学園祭当日。模擬店や展示、占い、踊り、大道芸、テレビゲーム、スポーツゲームイベント、音楽、踊りなど様々な催しで賑わっている。
体育館の舞台裏では、松戸彩子を中心にガーディアンデビルズの面々が円陣を組んでいる。
彩子が皆に語りかける。
「皆さん、私を演劇に加えていただいて感謝のしようもありません。夢が叶った気分です」
「演劇部に所属していなくても演劇はできるよね。今日はあんたが主役。さあ、張り切っていこう!」
とくのいち。
「みんな、用意はいい?」
「お〜う!」
と一同。今日も麗しき全体主義だ。
体育館には観客が集まっている。アナウンスが流れる。
「次の発表はガーディアンデビルズによる演劇の第二部です。題名は『謎のムンクのレインコート少女、呪いのアイテムで悪い奴らにお仕置きよ!』です。皆様、暖かい拍手をお願いします」
拍手と共に舞台の幕が上がる。軽快な音楽と共に、顔を肌色のマスクで隠した、黒づくめの女性らしき4人の怪しげな一味が登場する。
集団のリーダーとおぼしき黒づくめのマスクの人物が、観客に大声で呼びかける。
「ガーディアンデビルズだよ?」
リーダーの呼び掛けに観客からは打ち合わせ通りにリアクションが来る。
「全員集合―っ!」
「うおっす!」
「おーす!」
「もっと元気に〜うおっす!」
「おーす!」
観客と怪しげな集団のリーダーの女性との呼吸はピッタリだ。リハーサルの賜物か。
「私達は悪の秘密結社である。今日は生徒を拉致しにやって来た。改造人間にして、世界を征服するのだ。わっはっはー! さああんた達、その辺から適当な奴をさらっておいで!」
「イィ♡ イィ♡ イィ♡」
とちょっと色っぽい裏声で返事をする残り3人の怪しげな黒づくめの一味。
するとそこに、頭に『ヤンキー』と書かれたバンダナを巻いたヤンキーが登場する。彼女はビールジョッキ片手に歩きながら一杯あおっている。『いいもの』と書かれたタスキを掛けている。頭にバンダナ、肩にタスキ、手にはビールジョッキとなかなか忙しい。これで悪者でないのは笑える。
「ぷふぁーっ、やっぱ放課後の一杯はたまんねえな! あたしはこのために生きてんだーっ!」
黒づくめの集団はヤンキーを取り囲み、小突きまくる。
「あいたたた。あたしが何をしたって言うんだ!」
『わるもの』のタスキをした集団のリーダーの女性が答える。
「あなた、舞台袖で私の話を聞いていなかったの? これからあなたをさらって改造人間にするのよ!」
「だから何であたしなんだよ!」
「『学校でビールを飲んでいる生徒は拉致をしてもいい』という法律をまさか知らないわけじゃないわよね?」
「あたしはビールなんか飲んでねえよ! うーぃ、ひっく」
この演劇、これでいいのか?
酔っ払っているヤンキーのビールジョッキを指刺して、黒づくめのリーダーが問う。
「ビールは飲んでいない? じゃああなたが手にしているのは何?」
ヤンキーは答える。
「こ、これは……あたしのオシッコだ」
「黄色い液体が泡立っているじゃないの! そんなオシッコがあるの?」
「蛋白尿、糖尿、細菌尿、などの場合は尿が泡立つ場合があるんだよ! 試験に出るから覚えとけ!」
と開き直るヤンキー。タメになる医学知識だ。
「だったらあなたはそのオシッコを飲めるの?」
「あぁ、飲んでやるとも」
ヤンキーはジョッキの黄色い液体を全て飲み干す。
「ぷふぁ、たまんねぇ! これで証拠のビールはもうなくなった訳だ。あたしを逮捕する事はできねえぜ、ひっく」
「ヤンキーのくせに悪知恵は働くのね」
ヤンキーが『証拠のビール』と言っていたのにこれをスルーするとは……。おい、黒づくめの悪のリーダー、しっかりしろ。
「褒めてくれてありがとな、サンキュ」
「おしっこを人前で飲めるなんてヤンキーベリーばっちいだわ」
「還暦を迎える作者のダジャレのセンスなんてこの程度だよな、ヒック」




