第173話 扇子のついたバンダナ
彩子の自撮り写真の背景に映りこんでいた、帽子にマスクの女性。彼女は何故かクコリーヌの非売品アイテムを腕に巻いていた。
しかしそんなくのいちのセリフを聞くが早いか、くう子がガーディアンデビルズの部室にレオタード姿で入ってくる。
「私は正義の味方クコリーヌ。からすみ入りおにぎりを所望す!」
そう言って顔をヒッキーにぐいと近づけるくう子。
「あ、いや、おにぎりは後日調達する故、今は話を聞いて下さらんか、くう子」
「なに! 貴様からすみ入りおにぎりを持っていないくせに嘘をついて私をおびき寄せたのだな! 許せん!」
くう子はヒッキーの胸ぐらをつかんで持ち上げる。
「やはり私のフィニッシュブローはこれだ。ざんぱーんち!」
と言いかけたところで、くう子のアッパーカットは強の手に『パシッ』と止められる。
「くう子、取り込み中すまん。からすみなら俺んちの冷蔵庫にあと一切れ残っているから、明日のお昼までには届ける。今は話を聞いてくれ」
ヒッキーは先程の彩子の写真の背景のアップをくう子に見せる。マスクに帽子の女性の左上腕に目が行く。
「あっ、この腕のバンダナと扇子! クコリーヌのアイテムなのだ! これは非売品なのに何故この女が持っているのだ! さてはヒッキー、お前が闇でマニアに売って大金をせしめたのだな?」
「拙者もこのアイテムは持っていないでござるよ」
「正直に言うべしっ! さもないと貴様がミルクの寝顔を見ながらシャセイして、ガンシャのあげくその白濁液を顔に塗りつけた事を皆にバラすのだ!」
「その話は前にも聞いた。もう秘密でも何でもないだろ」
と強。
「取り敢えず〜その白濁液を出してくれる〜?」
とヒッキーをいじめる様な目で見つめるミルク。
「い、今すぐというわけには……」
「今すぐ実演して見せてよ〜」
今日はヒッキーは乳液を持っていない様である。
話がどんどんそれていきそうなので、本筋に戻す。
「くう子、そなたこそクコリーヌのアイテムを裏でさばいているのではござらんか? そなたなら予備はいくつか持ってるでござろう」
くう子は突然普通の口調になる。
「このアイテム、ある人に『どうしても欲しい』って言われて、二つだけ譲った」
「ある人って誰だよ」
とくう子に訊ねる強。
「学園祭の演劇のリハーサルを見学して、クコリーヌの衣装に興味を持ったんだって。強も聞いてたでしょ?」
「くう子、それってもしかして……」
「そう。古門劇代先生だよ」
くう子の話を聞いて色めき立つチョコ。
「じゃあ、この腕にバンダナを巻いた、帽子にマスクの女が古門なのね! 彩子が自撮りした時、近くにいたんだ!」
「古門先生の横に映っている男の人〜、カレシかな〜?」
こういう事にはめざといミルク。確かに、同じく帽子にマスク姿の男性が斜め後ろに映っている。
「この男の人の腕は映ってないけど、やっぱりバンダナを巻いていたのかしら?」
と『カラダは大人、頭はようちえん』の名探偵くのいちが言う。
「この写真だけでは何とも言えないでござる」
ちょっと考え込んでいたくのいちがはっ、として言う。
「ねえ彩子、この写真撮ったのバンガロービレッジの店の前だよね!」
「そうです。演劇用のアイテムを買って、くのいちに写メしたの」
「あの店の斜め向かいって魚池ドラッグズ&コスメのテナントが入っているよね?」
「そうだったかもしれません」
「そうだよあたし、たまにあの店に行くもん」
さすが金回りのいいJKはショッピングモールにも頻繁に出入りしているらしい。くのいちが続ける。
「魚池ドラッグズ&コスメの防犯カメラに何か映っていないかなあ?」
「お店の中と外に防犯カメラがあると思うよ〜。私がバイトしている店ではそうだも〜ん」
とミルク。彼女がバイトしている『魚池ドラッグズ&コスメ』の駅前支店で節陶子が万引きしているのを捕まえた時、店の中と外にある防犯カメラが役に立った事を彼女は覚えている。
「お父さん(割井校長)に相談してみるよ〜。映像がゲットできるかもしれないから〜」
割井校長は魚池ドラッグズ&コスメの経営にも一枚噛んでいるのだ。校長宅に居候しているミルクは時々その支店で看板娘としてバイトしている。




