第171話 古門に仕返しをしたい
彩子が自殺未遂に至った経緯が彩子本人の口から語られる。責任はどう見ても古門劇代先生にあるが、それを証明する事はできるのか? 彼女は何故そうまでして彩子を苦しめるのか?
放課後。ガーディアンデビルズの部室。彩子を囲んで座るくのいち、チョコ、ミルク、強、ヒッキー。
彩子がチョコの方を見つめながら口を開く。
「私がショッピングモールで自撮りした写真をSNSにアップしたの。それを偶然古門先生が見つけたらしく、先生が演劇部員用のホームページで苦言を呈したんだ」
「どんな風に?」
「『休日のショッピングモールで制服姿でぶらついている生徒がいる。第三ボタンまであけて、下着まで透けている。ブラウスにぺったりブラがついている』とか何とか」
ぶらついているのダジャレか。読者は苦笑するしかないだろう。
「『何らかの処置を検討します』とか書かれていた」
「処置って何だろう?」
「古門先生は演劇甲子園の出場辞退を決めたのです」
くのいちが口をはさむ。
「それって酷くない? 彩子ちゃんのSNS自撮りアップの件は一言注意すれば済む事だよね? そんな理由で演劇甲子園辞退じゃみんなが可哀想だよ。部員のみんなも古門先生を恨んだんじゃない?」
「そうかもしれませんが、私が写真をアップしなければこんな事にはならなかったわけで、怒りの矛先が私に向かったのです」
くのいちとチョコは先日のダイブでの演劇部員達のヒソヒソ話を思い出す。
『演劇甲子園に出られなかったのはあいつのせいじゃないか』などという噂話に悩まされ、彩子は色々な形で嫌がらせやいじめを受けた。彼女の書きかけの台本がビリビリに破かれて机の上に置かれていたり、背後から小道具を投げつけられたり、『今日は第一ボタン、ちゃんとしているんだ』と小声で嫌味を言われたり。
彩子は演劇部に居られなくなり、退部する。しかしその後も廊下ですれ違った部員に肘をぶつけられたり、下駄箱の靴が濡らされていた事もあった。
彼女は次第に『悪口を言われているんじゃないか、また何かされるのではないか』という考えが頭から離れなくなる。そしてとうとう彩子はマンションの五階から飛び降りを計画したのだ。
彩子は辛うじてLINEを通じてくのいちと繋がっていたから、飛び降りの直前に最後のSNSメッセージを送れたのだ。もしそれが無かったら……
重苦しい雰囲気の中、チョコが言う。
「古門先生が『何らかの処置を検討します』とか書き込んだ、演劇部員へのメッセージは残っているの?」
「あのメッセージはすぐに消されたので、スクショしている人はいないんじゃないかと」
「例えそのスクショがあったとしても、彩子の自撮りが原因で古門が演劇甲子園の辞退を強行した、という証拠にはならないよね」
とくのいち。
「お父さん、いえ割井校長先生からも聞いたんだけど〜、辞退の理由はあくまで流行り病のせいだって〜。これじゃあ古門を罰する事は出来ないみたいだよ〜」
「古門の奴、リアルの世界でもずる賢い。自分の手を汚す事無く、彩子を苦しめている」
そう言ってバットをブンブンいわせるチョコ。
「だけど彩子ちゃんをこんなに苦しめて、何が嬉しいんだ? 彩子、お前古門の恨みを買う事でもしたのか?」
と強が訊ねる。
「私には思い当たることは何も」
「古門が彩子の自撮りの写真によっぽど嫉妬したとか?」
とくのいち。
一同沈黙。そこに
「人の好みって色々だからね〜彩子ちゃんってアリなのかな〜」
とミルク。
「彩子ちゃんの自撮りの写真、拙者は興味があるでござる。見せて下さらんか?」
「ガーディアンデビルズきってのムッツリスケベのリクエスト〜、キタ〜」
確かにそうかもしれないが、ヒッキーは彩子をかばおうとしてそう言っているのではないか? このままの流れだと彩子の写真には価値が無い、誰も興味を示さない、という暗黙の了解が成立してしまう。
「ショッピングセンターでの私の自撮り写真は、古門から削除する様に言われたので、もう残っていません」




