第170話 チョコの恨みはまだ晴れない
ダイブの世界で古門劇代への復讐を遂げ、生きる力を取り戻した彩子。一方割井校長は演劇甲子園を辞退した件で、古門劇代先生に問いただす。
「おかえり〜。あれ〜、こんなところにAカップJKが三人もいる〜。誰需要〜?」
チョコ、彩子、くのいちが下着姿でミルクの道具屋に戻るなり、いきなりスクリーン越しにミルクのこの発言。
「あたしはAカップじゃない。Bカップ! この前チョコにもちゃんとトップバストとアンダーバストを測ってもらったんだから、彼女が証人よ!」
と言いかけたくのいちだが、Fカップの魔女を前に反論しても自分が惨めになるだけなので沈黙する彼女。
「ミルクが用意してくれたクコリーヌの鎧のお陰で助かった。ありがとね」
とチョコ。
「チョコに貸してあげた小学生用のブラ、ちょっとサイズが大きかったかな〜? 今度私がオートクチュールで作ってあげよっか〜?」
チョコがくのいちを見ながら言う。
「くのいち、あの子またウチらを挑発している。今すぐあの子をダイブさせてこの道具屋で決着をつけようよ!」
「そ、そうね。いっちょ二人でシメるか?」
と口では虚勢を張って見せるくのいち。しかしここはミルクが制御している道具屋。屈託なく微笑むこのFカップ魔女にこれ以上戦いを挑む気力はくのいちには無い。彼女のライフポイントも数多くの火の玉の攻撃でかなり失われているのだ。一方のチョコはまだミルクの本当の恐ろしさを知らない。
金のネックレスのペンダントをダイブの世界で電気スタンドに変化させ、『私は電気スタンド使いだよ〜』とか言いながら笠の部分でぽふぽふしてくる内はまだいい。それがひとたび金の十字架に変化したり、彼女の髪が逆立って鋭い爪や牙を生やしたりすると……死よりも恐ろしい攻撃が待っているのだ。
それにしても……ミルクはダイブの時、鍵となるアイテムをある程度予知できるのではないか、と勘繰るくのいち。
ヒッキーの世界のダイブでも強が南京玉すだれを使う事を予告していた。そして今回はチョコにクコリーヌの鎧もどきのお子様ブラを装備させた。
くのいちは知らない事だが、万引き少女節陶子と母親節操とのリベンジマッチで、琢磨に三校統一テスト一位の最優秀賞のボールペンを装備させたのもミルクだ。
ともあれ、ぎこちないやりとりをしているチョコとくのいちに、彩子が近寄り二人の手を取る。
「チョコ、くのいち、本当にありがとう。私何だか力が湧いてきたよ。演劇部員のいじめや冷たい視線になんか負けない。あんな理不尽な古門の仕打ちにも負けない! 思いっきり生きてやるんだ!」
彩子の言葉に落ち着きを取り戻すチョコ。
「そうだよ彩子。あんたは一人じゃないんだ。辛い事があっても仲間と分かち合えば乗り越えていけるよ!」
「あたしも彩子の戦いに力を貸すよ」
とくのいち。
手を取り合った三人は道具屋の中でやがて霧の様に消失していく。彼女達の精神はダイブの仮想現実の世界から、現実のカプセルの中に戻るのだ。
舞台は数日後。
「古門劇代! あの女許せない! いつかあいつの服を全部剥ぎ取って、股間にあたしのバットをねじ込んでズブズブ言わせたるわ!」
とガーディアンデビルズの部室の中でバットをブンブン振り回しながら大声で独り言を言うチョコ。精神的にも肉体的にも古門先生のモンスターにコテンパンにされた恨みはそう簡単に消えそうにない。
それとほぼ同じ時刻の学校の校長室。机に向かい合って話をする割井校長と古門劇代先生。
「先生も噂に聞いていると思うが、先日我が校の生徒が自殺未遂を起こした」
校長の言葉に半ば鼻で笑う様に答える古門先生。
「『私、死にたい』なんて言う演技をして人の気を引きたい、とか考える女子は結構いますよね」
「現場に居合わせた生徒達の証言によると、彼女は本気だった様だ。彼らが体を張って阻止してくれたお陰で何とか助かったのだ」
「それが何か?」
「その女生徒は演劇部員だったそうだ。古門先生は演劇部の顧問だったよね」
「松戸彩子さんには今度の演劇甲子園で脚本を担当してもらっていました」
「その演劇甲子園の出場辞退を決めたのは古門先生、あなたですよね」
「あの時は生徒の中にも何人か流行り病が発生していたのは校長先生もご存知だと思います。そのせいで野球部も、バスケ部も全国大会の出場を辞退したと聞いています」
「君の演劇部からは流行り病の生徒が出たのかね?」
「一人陽性者が出たと聞いています」
「その演劇部員はいわゆる幽霊部員で、部活にはほとんど参加していなかったと聞くが」
「演劇甲子園への参加を決める権限は顧問である私にあります。野球部、バスケ部などの看板の部活でさえやむなく出場辞退を決めたのですよ。私の判断のどこが間違っているのでしょうか」




