第17話 メンバー紹介
校長から改めてメンバー紹介がある。治安維持の会もガーディアンデビルズと改名され、会の設立の経緯なども説明される。
校長室。治安維持の会のメンバーと十数人の関係者が着席している。高級そうな机と椅子のセットに腰掛けている割井校長が治安維持の会の説明をしている。側頭部に髪の毛が残っているが、残りは禿げている。唇の上に髭を生やした五十代のちょいマッチョオヤジ。おでこにはたんこぶ。
「……皆も知っての通り、魚池グループは十年前、ハゲタカ証券の投資詐欺に引っかかり二百億円の損失を出した。それからというもの、多様な生徒獲得の為、改革に取り組んできた。一芸入学、勉学に捉われない推薦入試、系列高校の設立、系列大学の新たな学部創設などだ。その甲斐あって受験者数の増加、生徒数の増加を達成し財政基盤の健全化に貢献してきた」
割井校長の話は続く。
「しかしだ。生徒数の増加は学園の治安の悪化を招くという副作用を生じた。クラスによっては一部スラム化とさえ言われるところも出てきた。生徒数の多い学校はどうしても不登校、極端な例では自殺者がでる場合もある。私は学校の経営とのバランスを取った上で、少しでも生徒諸君にその様な不幸が起きない様努力したいのだ。いじめや暴力沙汰には抑止力が必要だ。治安維持の会の武闘派の面々には力ずくでの働きを期待したい。では改めて武闘派の紹介をさせてもらう」
スクリーンに制服姿の強が映し出される。
『剛力強 高等部推薦入学(武闘) 二年生 身長百七十八センチ、体重七十三キロ、バレエ同好会所属』
とある。割井校長が説明を続ける。
「剛力強君だ。彼は類いまれなる運動能力を評価されて推薦入学。陰では『ケンカ十段』と呼ばれているらしい。剛力君、簡単に自己紹介を頼む」
強が校長の隣に出る。
「俺は二年の剛力強だ。ただのケンカには興味はねえ。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら俺とタイマン勝負しろ。以上だ」
見学に来ていた聴衆からはざわめきが起きる。
『ざわ ざわっ 厨二病?』
琢磨が挙手する。
「何だね切磋琢磨君?」
「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者なんてこの学校にいるとは思えません。要するに彼は誰ともタイマンを張る気の無い僕の玩具って事でいいんですか?」
琢磨は左前腕に巻いた包帯を強めがけてシュッと投げる。強の両腕と胴体はグルグル巻きに縛られる。
「こら琢磨、卑怯だぞ。正々堂々と勝負しろ!」
「さぁて、無抵抗の強君の今日のカップサイズは、と」
琢磨の手が強の股間に伸びそうになるのを校長が制止する。
「琢磨君。強君は傷付き安い厨二病世代なんだから暖かい目で見守って欲しい」
今度は見学に来ていた金髪の女生徒が挙手する。
「はい、そこの生徒。名前と所属を言ってくれたまえ」
「二年生、バレエ同好会所属、アリス・ワンダです。どうしてここの茶髪が私と同じバレエ同好会に入っているのですか? 彼は武闘推薦と書かれているのですが」
強が金髪のアリスの質問に答える。
「俺は舞踊推薦で応募したんだが、手違いで武闘推薦の会場に通されちまったんだ。それで何だか合格しちまって。まあ、学園の治安は俺に任せろ」
「何だかグダグダな紹介になってしまったので次に行かせてもらう。久野一恵君だ。中等部の頃から彼女の噂を聞いている生徒も多いと思う。彼女には治安維持の会のリーダーを務めてもらっている」
スクリーンにくのいちの写真が映し出される。何故か和室の畳の上でスクール水着姿。半分寝そべった姿勢から上半身を起こし左膝を曲げて立てたまま、股間を少し広げている。友達と遊びで撮影したのであろうか。
『久野一恵 中等部出身 特待生 二年生 身長百七十五センチ、体重五十八キロ、B75 W63 H90 趣味 一人芝居 座右の銘 部員の物は私の物 私の物は私の物』
と書かれている。くのいちは慌てる。長い腕をバタバタと動かす。
「ストップ、ストップ。なんであたしだけ水着なの? スリーサイズとか恥ずかしい趣味とか座右の銘まで入っちゃってるし。第一、これはアンダーバストのサイズじゃないの! 女の子のスリーサイズはトップバストで表記するのが業界の慣例でしょう!」
聴衆から、
『ざわ ざわっ あの写真どこから手に入れたんだ? 業界の慣例って何だよ?』
と声が漏れる。
「ごめん、くのいち。校長にせがまれて三千円で売った」
とチョコが言う。校長は咳払いをする。
「うおっほん。失礼した。男女不平等は私のポリシーに反する。写真を訂正させてもらう」
スクリーンからくのいちの写真が消え、再び強の写真が映し出される。先程の制服姿とは異なりバレエ『海賊』の衣装で踊っている一枚。上半身は裸で下は体にフィットするタイツ。股間に着けているやけに大きなパッドがセクシーと言えなくも無い。強、唖然とする。
「そっちかーい!」
「うわぁ、しゅごい!」
くのいちは目を輝かせヨダレを垂らしながら強の写真を見つめる。
聴衆からは、
『ざわ ざわっ 股間のパッド、やけに大きくないか? 中身はほとんど無かったりして』
などの声が漏れる。
「ごめん強。校長にせがまれて五十円で売った」
とチョコ。
「せめて百九十八円くらいの値段はつけて欲しかった。スーパーの納豆より安いなんて」
と嘆く強。
「次に紹介するのは切磋琢磨君だ。包帯を自在に操り敵の動きを封じ込めるなどの特技で一芸入学になった。最近では魚池グループ三校統一テストで一位を取ったのを覚えている人も多いと思う」
琢磨の写真がスクリーンに映し出される。全裸に包帯をまとっただけのセクシーな一枚。
『切磋琢磨 高等部推薦入学(包帯使い) 二年生 身長百七十五センチ、体重六十五キロ』
とある。
「あたしは普通の写真を撮ろうとしたんだけど琢磨がノリノリで……」
とチョコ。それを見てミルクが校長の机に詰め寄る。彼女は机に千円札三枚をバン! と叩きつける。
「お父さん、いえ校長先生。ここに三千円あります!」
くのいちも校長の机に詰め寄り、百円玉をパシッと置く。
「あたし百円玉しかないんだけど、お釣りある?」
「えっへん、うおっほん」
割井校長はもっともらしく咳払いをして懐から扇子を取り出しパッと広げる。それをミルクとくのいちの耳元に近づけ小声で言う。
「商談は後でゆっくりと」
校長が話を続ける。
「話が途中になってしまった。琢磨君も何か一言」
琢磨が立ち上がる。少し長い髪をかき上げキメポーズを取る。
「治安維持の会はくのいちさんと強君が二枚看板です。僕は強君を陰からもて遊ぶ役として貢献するつもりです。因みに先程の彼のバレエの衣装のカップは僕達二人で選びました」
聴衆の携帯カメラが一斉に琢磨に向けられる。飛び交う質問の嵐。
『ざわ ざわっ お二人はどのような関係なのですか?』
『強君の股間のカップのサイズは?』
『琢磨さんが試着を手伝ってあげたのですか?』
校長が聴衆を静める。
「琢磨君と強君は一般人なのでマスコミの方々はその辺の配慮をお願いしたい。冗談はさておき、治安維持の会は武闘派とは別にもう一つ大切な役割がある。緊急時には彼らにいち早く連絡を入れ、トラブルの際の証拠を記録する事だ。学園の監視カメラは現在も増設中だが、それと合わせて客観的な証拠を集め、公平な裁定を下す事が大切と私は考える。その連絡係のリーダーを務めてもらっているのが税所千代子君だ」
チョコの写真がスクリーンに映し出される。いつものソフトボールのユニフォーム姿……ではなく自室で携帯片手にトレーニング用の短パンとトップスを着ている。他のメンバーの露出度の高さに歩調を合わせたのか。チョコレート色の肌、ウェーブのかかったショートヘア。
『税所千代子 高等部推薦入学 (ソフトボール) 二年生 身長百四十五センチ、体重三十六キロ、BWH 需要無し』
と書かれている。
「治安を乱す行為を見かけたらすぐ動画で撮影するのが私達の役目。そのためのチームを現在募集中でーす。チームのみんなで連携して悪い奴を監視する目になろうよ。何かあったら強やくのいちがすぐに飛んでくるから。腕力なんかなくていいんだよ。大切なのは一つにつながろうとする心。今日みんなに見学に来てもらったのはそのためなんだ。興味があったらいつでもいいから私にメールして」
チョコの短いスピーチに拍手が起こる。強が口を開く。
「こいつはちびっ子で幼児体型だけどバットを操る技術は神業だ。舐めてかかるとバットの餌食になるぜ。そうですよね、校長?」
「税所君、バットは人を殴る為の道具ではないのだからもっと優しく頼むよ」
割井校長はおでこのたんこぶをさすりながら言う。
「強も体の一部はちびっ子だよね」
とチョコが言う。
「どうしてそんな事分かるんだよ?」
「分かるよ。だって私達幼なじみだもん」
聴衆からざわめきが起こる。
『ざわ ざわっ 学園物の王道、幼なじみキター』
『幼なじみと言えば一緒にお風呂に入ったというエピソードは必須だよな』
『見せっこ比べっこは幼児の特権でつね』




