第169話 貞操の危機対策グッズ
彩子を自殺未遂に追い込んだ古門劇代のモンスターは、彩子自身の手によって葬り去られた。アマリンドットコムだかドンキで購入した鈍器の様な物が効力を発したのだ。
それとともにくのいちを閉じ込めていた鋼鉄の処女が消失する。立ったまま気を失っていた彼女は床に崩れ落ちる。
人形と化していたチョコの瞳にも徐々に生気が蘇る。黒焦げになっていた彩子の服も元に戻る。
水晶玉を両手に持ち尋常ではない表情の彩子に気付き近寄るチョコ。
「あ、彩子ちゃん。古門は?」
「涅槃へと旅立ちました」
「ネハン?」
そう言って彩子を見つめるチョコ。彩子の手の水晶玉が血の色にベッタリと染まっているのを見て、状況を理解する。
「あたし、浄化モードの野球拳で負けたんだよね。それで鎧の上下を失って……でもあたしのブラとパンツは無事だ! 彩子ちゃんが戦ったんだね!」
「私が気づいた時には古門はがんじがらめに拘束されていました。私は水晶玉のお告げに従い、古門の旅立ちをお見送りしました」
「がんじがらめって……クコリーヌの鎧だ! あたしが着けていた鎧、ダイブの世界でも効果があったんだわ。ミルクのお陰ね、きっと」
チョコは勘違いをしている。鎧はただの鎧だ。威力を発揮したのは奪われたお子様ブラ。
ミルクはダイブの世界で最初に、
「チョコに合った小学生用のブラでも着けたら〜?」
とアドバイスしていた。
「中年の劣情を煽るのには最適だよ〜」
と説明されたそのアイテムは、チョコの貞操の危機にクコリーヌの鎧の様な威力を発揮したのだ。いかにもミルクらしい悪趣味な発想である。
チョコはミルクのアドバイスに愚直に従っていたので九死に一生を得たのだ。
そもそも浄化モードは現実世界でカプセルに入って、ダイブの仮想現実に居る人間に作用する物である。古門劇代先生は今回はカプセルに入ってはいない。彼女の化したモンスターは彩子の心が産み出した物だ。
この浄化モードは彩子の怨みを晴らす為に働いたのだ。現実世界の古門劇代先生の心がこれで浄化された訳ではない。
意識を取り戻したくのいちがゆっくりと立ち上がり、チョコと彩子に近付いて来る。ボロボロになった制服の上は脱ぎ捨て、スカートの上はブラ一枚。
「あれ、あたしどうしちゃったんだろう。チョコの剣からの火の玉攻撃でやられたのは覚えているんだけど」
「あたしがいつあんたを攻撃したのよ!」
とチョコ。
「この教室に入ってからずっと」
とくのいち。
やはりチョコに散々攻撃された事を根に持っているのか。チョコは半ば呆れて声も出ない。
その時、くのいちの髪飾りの手裏剣が口を開く。
「チョコはお嬢と彩子を守るため、古門の火の玉攻撃を全て体で受け止めた。激しい熱さと痛みに耐えながら最後は弁慶の様に仁王立ちで倒れていったんだ。感謝こそすれ、恨むのは筋違いだ、お嬢」
「そういえば古門は?」
とくのいち。チョコが説明する。
「あたしと古門の一騎打ちになってあたしが倒れた後、浄化モードが発動した」
浄化モードと聞いて顔がひきつるくのいち。
「浄化モード! じゃあチョコが古門をコテンパンにやっつけたのね!」
「そうだったらカッコ良かったんだけどね。あたしは浄化に失敗して気を失った。こうして気がついた時には彩子ちゃんが古門を葬り去っていた」
「彩子が? やるじゃない彩子! 水晶玉の力を使ったんだね?」
「いえ、水晶玉と力を使っただけです」
くのいちは彩子の言葉の意味は深く考えはせず、ただ戦いに勝利した事を喜んでいる。
「なんにせよ、クエストは終了ね。みんなでミルクの道具屋に戻ろうよ」
くのいちのそのセリフをよそに、彩子は突然制服の上下とキャミソールを脱ぎ始める。
「ちょっと彩子、どうしたの?」
とチョコ。
「チョコは上下とも下着、くのいちも上はブラ一枚。私だけ制服を着ているのがなんか申し訳なくて」
そう言って上下とも下着姿になる彩子。
「なにそれ。JK三人が教室で下着パーティー?」
くのいちもスカートを脱ぎ捨てる。やはりくのいちのすらりと伸びた手足が目を惹く。
余談であるが、高級下着のマルチまがいの販売を目的に、自宅で下着パーティーを女性同士で開催して売り上げを促進する、なんていう商法を聞いた事があるが、男からすると全く理解できない。
「うわ、こいつのパンツカッコいいな。よし、俺も一つ買おう」
という展開にはならないからである。
話を元に戻す。下着姿の三人はお互いを見つめ合って微笑む。三人の心の繋がりが強くなった様である。
作者は決して半裸のJK達をやみくもに描きたかったわけではない。これは三人の美しい友情物語なのだ……と日記には書いておこう。……えっ、チョコの鎧はどうなったのかって? 古門先生のモンスターと共に消え去ったのであった。




