第167話 じゃんけんに見せかけた格闘
白熱する浄化モードの野球拳。アラフォー彼氏無しの性格の悪い音楽教師と、幼児体型の幼女との一騎打ちだ! 誰需要なのだ?
チンチン、ドンドン、という楽しげな伴奏が始まる。
「♫やぁきゅうう〜う、すぅるならぁ〜こーゆーぐあいにしーやしゃんせ〜」
大真面目に歌いながらじゃんけんの体勢に入るチョコと古門先生。
チョコが心の中で独白。
「(古門の奴、許せない! ここはグーを出してその勢いで奴の顔面に拳をぶち込む!)」
「アウト! セーフ! よよいのヨイ!」
チョコのグーパンチが古門先生の顔面を襲う。が、しかし、古門先生はそれを手のひらでパシッと受け止める。
「私の勝ちだ」
と不敵な笑みを浮かべる古門先生。
「まずはtea茶の勝利やな。さあおチビちゃん、一枚脱ぎなはれ」
「くっ……」
チョコは仕方なく胴の鎧を外し床に置く。これで上半身はブラ一枚。下半身は短パン型の鎧。その下に下着をつけている模様。
「この鎧は私が貰ってもいいのかい?」
と古門先生。
「それはあんさんの戦利品でおま。好きにしなはれ」
「じゃあ遠慮なく」
そう言ってチョコの胴の鎧をジャージの上から装着する古門先生。鎧は伸縮性があり彼女の体にもフィットする。
「これでこの子は私の胴への攻撃はできないだろう」
楽しそうにチョコに心理的圧力を加える古門先生。
「第二戦に入りま」
二人は再び野球拳の歌を歌う。チョコは凄い形相で古門先生を睨みつけている。
「(畜生! 今度は目を狙う! 目を潰してしまえば次のじゃんけんはギリギリセーフの後出しができるかもしれない!)」
「アウト! セーフ! よよいのヨイ!」
チョコの二本の指が古門先生の両眼を襲う……が古門先生はそれを拳で受け止める。
「痛い!」
チョコは人差し指と中指の二本をグシャリと突き指。
「またしても私の勝ちだ」
余裕しゃくしゃくの古門先生。
「おチビちゃん、とっとと脱ぎなはれ」
野球の神様に促され、チョコは悔しさと恥ずかしさで顔を赤くして、指の痛みをこらえながら短パン状の鎧の下を脱ぎ捨てる。これで彼女は上下とも下着一枚のみ。
チョコの脱いだ下半身の鎧の横ファスナーをあけ、鎧を布の様にジャージの腰の辺りに巻きつける古門先生。やはり伸縮性がありジャストフィットする。
「やっぱりバカはじゃんけん弱いね」
と古門先生。
「何だと!」
と怒りを露わにするチョコ。いつも人を斜め上から操作している様に見える彼女がこんなに感情的になるのは珍しい。
「お前はまず、私の顔面に一発入れたかったのだろう? さっき私が火の玉で『お前の顔面を焼き潰す』と脅した時、お前は一瞬怯えた顔をしていたからな。仕返しを考えるのも当然の事だ。だからグーを出した」
手の内を見透かされ、文字通りぐうの音も出ないチョコ。
「私がお前の胴着を奪ったので、お前の攻撃の範囲は限定された。そこで二戦目は私の目を狙いにいったのだろう? 見え見えだ。凄い顔で私の目を睨んでいたからな」
「さあ、いよいよ第三戦でおます。これでおチビちゃんが負けたらゲームは終了じゃよ」
チョコが思わずシュプレヒコール。
「野球の神様、あんた誰の味方なのよ! このじゃんけんもインチキなんじゃない? これはあたしの浄化モードなんだよね? なのになんであたしがこんな目にあわなきゃならないの? おかしいでしょ!」
それを聞いて薄ら笑いを浮かべる古門先生。それに呼応する様に天井から、姿の見えない野球の神様の声。
「ワシは親切心でおチビちゃんにチャンスを与えとるつもりじゃがのう。浄化モード無しにあんさんがtea茶を倒せる見込みは無い。マッドサイコを自殺にまで追い詰めた強敵じゃからな。つべこべ言わず、じゃんけんで勝ちなはれ。おチビちゃんの不正ギリギリの行動にも、こうやって目をつぶってあげているつもりなんやで」
野球の神様の言葉を噛み締めてうなづくチョコ。
「そうね。あたしが悪かった。正々堂々と勝負しなければいけないのはあたしの方だよね」
野球で言えば零対三。九回裏ツーアウトランナーなし。ノーボールツーストライク、バッターの八番打者は本日ヒット無し。衣服はお子様ブラとパンツのみ。ここでジタバタしてはダメだ。
「第三戦に入りま」
「♫やぁきゅうう〜う、すぅるなら〜」
敢えて明るく元気に歌うチョコ。
「アウト! セーフ! よよいのヨイ!」
この作品が『カイジ』だったら、第三戦を突如休止させて、「次の勝負は二枚賭けにしたい」と相手に揺さぶりをかけてくるはずだ!




