第164話 チョコの神風特攻
古門劇代のモンスターに全く歯が立たないチョコ。神にもすがり出したこのシリアス展開は、このままバッドエンドを迎えてしまうのか?
「あなたはソフトボール推薦で入学した生徒よね。縮れ毛はやめていっそ丸刈りにした方が良くなくて?」
古門先生の火の玉がチョコの顔面を襲う。チョコはそれをネバネバの体でなんとか打ち返し、火の玉は古門先生の顔面に返ってくる。しかし彼女は顔をスッと傾けかわす。
続いて火の玉がチョコの腹部を襲う。チョコが打ち返した火の玉はやはり古門先生の腹部を襲うが、またも彼女はそれをかわす。
その後も古門先生の火の玉が次から次へとチョコを襲う。チョコはそれをネバネバの体でなんとか打ち返す。古門先生を狙って打ち返した火の玉は、全てよけられる。
「はあっ、はあっ。キリが無いわ」
喘ぎながらチョコは周りを見回す。すると……
「えっ、そんな事って!」
チョコは思わず声を上げる。
彩子は倒れたまま気を失っている。
くのいちも『鋼鉄の処女』に閉じ込められて、立ったまま気絶している。チョコが打ち返した火の玉が軌道を変えて全て二人に命中したのだ。
火の玉に剣は通じない。バットで打ち返しても古門先生によけられ、それがくのいちと彩子に襲いかかる。打ち返さなくてもチョコがやられる。彼女はバットの下端をカチリと押して再び剣に戻す。
「もう打撃練習はおしまいかい?」
「(こうなったら特攻しかない! あいつに真正面から突っ込んで首を一刺しにする!)」
剣を構え、古門のモンスターに向かって突撃するチョコ。
「カミカゼ攻撃かい?」
火の玉が次々と容赦無く襲いかかり、チョコの行く手を阻む。火の玉を剣で切り裂いても、割れた玉が彩子やくのいちに襲いかかる。これ以上ダメージを受けると彼女たちのライフポイントも尽きてしまうだろう。
ドスッ、ドスッと体に食い込む火の玉。チョコの制服も焼けこげていく。それを仁王立ちで受け止めながら剣の切先を向け一歩ずつ古門に近づいていく。痛みと熱さに耐えながらチョコの独白。
「彩子ちゃんの自殺未遂の原因がわかってきた。問題なのは演劇部の部員達と顧問の古門劇代なんだわ。部員は全員始末したけど、このラスボスの古門のモンスターを倒さないと彩子ちゃんの自殺願望は癒されない」
物凄い形相で古門先生を睨みつけていたチョコであったが、次から次に襲いかかる火の玉に、ついに力尽きて倒れ込む。
「噂に名高いガーディアンデビルズも大した事ないね。校則を無視する者の報いだよ」
うつ伏せにうづくまりながらチョコの小声の独白が続く。
「あたしのバッティング技術は完璧なはず。体がジェルで粘ついたくらいでもなんとかなるはずなのに……でもあいつには通じない……どうしてなの! もし野球の神様がいるのなら、あたしにどうすればいいのか教えて!」
遂に困った時の神頼みにすがるチョコ。……ふと遠くからクラリネットと横笛、『チンチンドンドン』という打楽器の楽しげな音がかすかに聞こえてくる気がするチョコ。
「あたしのバッドエンドのテーマ曲はチンドン屋?」
「シリアス展開になるとお色気が疎かになっちまうんだな、これが」
と天井から声がする。このタイミングでこんな事を言うのは、くのいちの剣、ソードプリンシパルくらいのものだが、彼はくのいちの髪飾りの手裏剣に戻ったままで反応が無い。
「あなたは誰? 私の幻聴?」
「あんさんが呼んだから出てきたんじゃろが。ワシは野球の神様じゃよ」
「あぁ、ついにあたしも自分の願望の幻聴に支配されちゃったのね」
「だから幻聴じゃないと言うとるやろが!」
「なんか幻聴がごちゃごちゃ言ってる……」
「おチビちゃん、これはあんさんの浄化モードやで。浄化すべき対象と二人きりになった時に発動できるのじゃよ。あのオッパイの大きな女の子はいつでも発動できるらしいがのう。おチビちゃんも早くオッパイ大きくおなりいな」
「何者だ!」
天井からの不審な声を聞いて、天井目掛けて火の玉を投げつける古門先生。天井が焼けこげて穴が空く。
「そこのtea茶、ワシは神様なんじゃから、そんな攻撃は無意味じゃよ」
「先生の事をtea茶と呼ぶなんて、この神様、ダジャレのセンスない」
とチョコがダメ出しをする。この作品はダジャレには評価が厳しいのだ。
古門先生は倒れているチョコに近づき、チョコの顔面に火の玉を近づける。
「今すぐこのおかしな声を止めさせろ。さもないとお前の顔を焼き潰す」




