第162話 彩子の水晶玉の威力
現実世界では腹話術で怪しいお告げを話すアイテムに過ぎなかった水晶玉がダイブの世界では効力を発する。
その時教室内に『あっははは、あっははは』と笑い声が響く。一同教室内を見回す。すると壁に似せた布が破けてくのいちが姿を現す。相変わらず上半身は下着姿。
「忍法隠れ身の術。あっははは。あっははは。やっぱあたし甘いわ」
「くのいち!」
「ごめんチョコ。あたしが間違っていた」
くのいちはソードプリンシパルを振るい女子生徒の一人を斬り倒す。彼女は叫び声をあげて倒れ、霧の様に蒸発する。
「自分は何も悪くない振りをして集団で一人に狙いを定めてじわじわと攻撃する。相手がいくら苦しんでもそんなのはお構いなし。加害者の見えない残虐なゲームを楽しんでいるのね。こんな奴等への対処方法は簡単。被害者にさせちゃえばいいのよ。弱い者を狩っているつもりが狩られる方になっていた恐怖を味あわせてやればそれでおしまい。チョコ、さっきはあんたを止めたりして悪かった。一緒にこいつらを殲滅しよう」
そう言って一人、また一人と女生徒を斬り倒していくくのいち。
チョコも気持ちが吹っ切れた様で、チョコレート色の剣で女生徒達に斬りかかっていく。
「やっぱこいつらモンスターだ」
「どうして分かるの?」
「あたしとチョコに倒されても、命乞いなどしない。逃げる素振りも見せない。こいつらは自分の意志を持っていないんだ。ただ相手の心の弱みを見つけて攻撃するだけの存在。中身もさっきはただのクラスメートみたいだったけど、今は演劇部員に突然変化した」
彩子は水晶玉を高く掲げ、声を張り上げる。
「私を苦しめているのはただのクラスメートではない事は分かっています。正体を現して!」
水晶玉は光を放ち女子生徒達はモンスターに変化する。全員、剣を構えている。
「ナイス、彩子! これで心おきなくぶった斬れるわ!」
くのいちは改めてチョコを見る。チョコの手足には多数の傷がつけられ髪も切られ、顔を含め体じゅうから出血している。制服もズタズタに切り裂かれ、胴につけていた鎧が露出している。
「チョコ、その傷!」
「やっと気づいたのくのいち。遅いよ。彩子ちゃんの水晶玉の力でくのいちにも見える様になったんだね」
「お嬢、彩子をガードしろ」
「言われなくても!」
チョコはモンスターの一群に突っ込み、目にも止まらぬ剣さばきで次々に倒していく。
『くのいち、自分が一番強いと思い込んでなぁい?』
と挑発的なセリフを吐くだけあって、確かに武器を持たせたチョコは強い。
彼女は現実世界でもバットを構えれば、例えデッドボールを狙って体にボールを投げられても狙われた場所に正確に打ち返す事ができる。くのいちも遊びでチョコにボールを投げて顔面にピッチャー返しを喰らった事がある。もはやバッターのスイングではない。曲芸の類いだ。
『今度あの子を現実世界で倒す時は丸腰の時に後ろから襲い掛かろう。念の為手裏剣は装備』
などとくのいちが不謹慎な事を考えている内に、チョコは教室内に二十匹はいたモンスターを全て倒す。
「チョコ、やったね!」
彩子は歓声をあげる。彼女の全身の傷や破れた衣服は元に戻っていく。チョコを見ると、同様に切られた髪や全身の傷、服も徐々に復元される。しかしくのいちの上半身は下着姿のまま。
「あたしの服は?」
「モンスター達の攻撃は幻影だった様だな。奴らの消滅でダメージは復元された。しかしお嬢の制服は直接チョコに斬られたので元には戻らない。さっき隠れ身の術で使った布地、破かないで取っとけば良かったんじゃないか? まあ、ストーリーがシリアスになるとお色気がおろそかになってしまうのは世の常だ。お嬢、もう暫くお色気担当で居ろ」
「あたしもついにノリツッコミマスターからお色気担当に昇格?」
「ミルクやくう子、節陶子もここには居ないんだ。我が家の苦しい台所事情を察してくれ」
「やっぱあんた、海水に一晩浸かっとく?」
トイレに隠れている彩子のイラストは「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトで。




