第161話 彩子がいじめられた原因
彩子の精神世界で、演劇部員達と彩子との関係が語られる。
教室の前の廊下。彩子が立っている。そこにチョコが近づく。
「彩子ちゃん。あれ、くのいちは何処!」
チョコの目は血走っている。
「チョコさん、あなたが連絡を取ってくれたお陰でくのいちは私の居所を突き止め、マンションの五階にいた私を助けに来てくれたの。本当にありがとう。お礼を言う余裕も無くて」
彩子のこの言葉に少し表情が和むチョコ。
「チョコでいいよ、彩子」
彩子は水晶玉越しにチョコの全身を見つめる。
「この教室の中は悪意で溢れている。あなたにつけられた腕や肩、頬の傷、鎧の切れ込みは私には見える。髪がざっくり切り取られているのもわかる」
「くのいちにはスルーされたけど、彩子には分かるんだ?」
「分かるよ。私の心の中には何度も同じ傷がつけられてきたから。くのいちには見えていない。聞こえない。気付く事ができない。でもくのいちを責めないで。悪いのは私。私に向けられるはずの攻撃があなたに向けられただけ」
「それにしても全く気付かないなんて、くのいち鈍すぎ」
とボヤくチョコ。
「そこが彼女の強みでもあるんでしょうね」
彩子は教室のドアを開けて中に入る。女子生徒の何人かの視線が彩子に向けられる。視線はレーザービームの様に彼女に襲いかかり、腕やふくらはぎのあたりから少量の出血が見られる。
「くっ!」
「大丈夫、彩子?」
「これくらいの傷は慣れっこ。さあ、あなたも教室に入って。私を攻撃してきた奴等の本当の正体を知りたいの」
チョコと彩子が教室の中に入って行く。女子生徒達のヒソヒソ話が聞こえる。演劇部の部員らしい。
「うちらの部の全国演劇コンクール、出場辞退だってよ」
「え、マジ? あれだけ準備したのに?」
「顧問の古門劇代先生が言ってた」
「なんでよ? 納得いかない」
「なんでもうちら部員から流行り病が一人でたとかで」
「あっそれ知ってる。あの幽霊部員の子でしょ?」
「でもあの子何ヶ月か前に骨折してずっと入院してて、部活どころか学校にも来ていなかったじゃん」
「その子が流行り病で陽性になったから演劇部が出場辞退? おかしくない?」
「どうやら古門先生が出場辞退を決めたのはもう一つ理由があるらしいのよ」
「何それ?」
「古門先生のSNSで見ちゃったんだけど、校則を破った生徒がいるからケジメをつけなくては、とか書いていたらしいよ」
「校則を破ったの?」
「制服を着たままでショッピングセンターをうろついていて、その様子を楽しそうに自撮りしてSNSにアップしていた子がいるんだって。そのSNSを古門先生が偶然見つけて問題視しているらしいんだ」
「でもそれって本人にちょっと注意すれば済む事なんじゃない?」
「古門先生厳し過ぎるよね」
「でもその子が制服で自撮り、SNSにアップなんかしてなければ演劇コンクールに出場できたんだよね」
「誰、その子?」
「肝心のSNSの写真は削除されちゃっているから分かんないけど、色々噂はあるよ。あいつじゃないかって」
「ああ、いつも変な予言とか言う子だよね」
「確か脚本担当じゃなかった?」
チョコがふと彩子に目をやると彩子の体には無数の傷がつけられておりダラダラと出血している。衣服もズタズタになっている。彼女はそこに仁王立ちで女子生徒達を睨みつけている。
「彩子!」
と叫ぶチョコ。




