第16話 誰もがゲロ吐く学食のパン
治安維持の会といじめの被害生徒を結ぶ生徒指導室。情報の共有の証として学食のパンが使われている。指定された秘密のパンを生徒が生徒指導室に持って行く事で事件の裁定が下されるのだ。
その時『すみませ〜ん』と声がする。昨日ヤンキー、池面との三角関係でヤンキーパンチを喰らい辱めを受けた女生徒が生徒指導室から戻って来たのだ。
「強君、昨日は助けてくれてありがとう……って大丈夫ですか!」
女生徒は強の姿を見て驚く。椅子に縛られ、くのいちのハリセンやチョップで負傷し、制服の前がはだけて顔にはマジックでかかれた『家賃滞納』の文字。頭には大きなリボン。
「これはいじめですか? リンチなんですか? どこの不良にやられたんですか!」
ミルクが女生徒をなだめる。
「これは〜治安維持の会の日常だから〜、気にしなくてもいいよ〜。強君は〜パンのみみでも食べれば〜すぐに元気になるから大丈夫〜」
「そうなんですか。安心しました。生徒指導室から納豆タイカレーパン、くさやの干物風味を半分持ってきたので食べて下さい」
女生徒はパンを椅子に縛られている強の口に入れる。
「どう強、パンの味は?」
とくのいちが尋ねる。
「タイカレーと納豆の夢のコラボレーション。調味料のナンプラーにくさやの干物という新たな発酵食品のフレーバーが加わって……ああ、日本人に生まれて良かった」
と言ったところで力尽き強は嘔吐する。
「生徒指導室と私達治安維持の会を結ぶ大切な符牒であるパンを吐き捨てるってどういう事よ!」
と怒るくのいち。
「いや、それが、俺、今……つわりなもんで」
と苦し紛れの言い訳の強。
それを聞いたミルクが突然琢磨の首を両手でつかむ。
「琢磨さん、強君に何をしたの! 怒らないから正直に言って! 出来ればそれを再現して見せて!」
「ぐわっ、ミルクちゃんタンマタンマ!」
ミルクは琢磨の首をぐいんぐいんと前後に揺さぶる。
「琢磨、強がパンを食べられないみたいだから代わりにあんたが食べなよ」
とくのいちが無責任な発言をする。
「ぼぐが……でずが?……」
とミルクに首を絞められている琢磨。
「そ。あなた登場したばかりでまだキャラ立ちが弱いじゃないの」
ミルクは琢磨の手を緩める。
「魚池高校随一の秀才にしてイケメン、特技は包帯使い、彼女はこの森野ミルクちゃんだけど強君の事もやっぱり気になる、苦手な食べ物はタイカレー、の僕のキャラ立ちが弱い?」
「やっぱり琢磨さんって強君の事も気になるんだ……」
「食わず嫌いはダメよ」
くのいちは強の食べかけのパンを琢磨の口に突っ込む。
「強君との念願の間接キスだ。……ああ、感極まってつわりが……」
琢磨も嘔吐する。
今度は椅子に縛られている強の首をミルクが両手で絞める。
「強君、琢磨さんにまで手を出したのね!」
ミルク、嘘泣きの涙を流しながらドラマの悲劇のヒロインの様な表情。
「もう私、誰を信じたらいいのかわ゛〜が〜ら゛〜な゛〜い゛!」
そう言って強の首を両手で絞めるミルク。
「俺もミルクの何を信じればいいのか分からなくなってきたぞ」
椅子にがんじがらめに縛られ頭にリボン、顔に『家賃滞納』の落書き、くのいちからのハリセンとチョップを受けてたんこぶ、納豆タイカレーパンくさやの干物風味を食べて嘔吐した上にミルクに首をぐいんぐいんに絞められている強があきらめ顔で呟く。
その時スピーカーから全館放送がチョコの声で流れる。
「割井校長先生の緊急集会です。治安維持の会のメンバーとその関係者は至急校長室にお集まり下さい……あ、校長、うなじに息を吹きかけちゃだめだってばぁ!」
琢磨が強を縛っていた包帯をさっとほどく。強はけろっとして元の状態に戻る。琢磨もミルクも真顔に戻る。
「チョコの貞操がピンチかもしれねえ。急ぐぞ」
と強。
「これ全部お芝居だったんですか?」
と女生徒は言って強の顔の落書きを、シンナーを染み込ませたペーパータオルで拭き取る。
「早く行かないと校長がバットの餌食にされるかもしれません」
と琢磨。




