第159話　悲惨さを猛アピールするくのいち

「『武器を捨てて』か。仕切り屋の物言いだよね。くのいちってもしかして、ガーディアンデビルズの中で自分が一番強いと思ってなぁい？」

「三つ数える。それまでに武器を床に置くのよ！」

「そんな脅しが通用するとでも？　第一、あんただけ武器を持ってるままなんて不公平だよね。あんたは信頼できる交渉人には到底なれない」

　チョコはそう言うとバットのグリップエンドをカチリと押す。バットはチョコレート色に輝く剣に変化する。剣からは褐色の雫が滴り落ちる。チョコは剣に舌を這わせる。

「カカオ成分九十パーセント。これくらいビターな方がバトルには似合うわ」

　チョコはくのいちが剣を捨てる様子が無い事を確認した後、くのいちに斬りかかる。くのいちも応戦。二人の剣のバトルが始まる。チョコとくのいちは身長差が三十センチくらいある。腕の長さの差も大きい。しかしチョコの剣さばきは素早く、華麗で時にトリッキー。前後左右に体を動かし不意にジャンプしたりかがんだりしながら思わぬ方向から剣を繰り出す。

「あんたの剣の動きは遅い。止まって見える」

　くのいちを翻弄し、剣をかわしはねのけ、斬り込む。チョコを倒す意志の無いくのいちは防戦一方で、遂に胸に一撃を喰らう。くのいちの制服が裂け、上半身は下着姿になる。

「きゃっ！」

　チョコの気迫に圧倒されるくのいち。

　彼女はソードプリンシパルに問いかける。

「あたしはどうすればいいのよ？」

　今までずっと無言だった剣が口を開く。

「たとえお嬢がチョコを倒しても事態の解決には繋がらないだろう。ダイブの目的は松戸彩子の心の内を探る事だ」

「そんな事は分かってるわよ！」

「このままお嬢がチョコにやられても同じ事だ」

「だったらあんたがチョコを説得してくれるの？」

「逃げろ」

「逃げる？　ちょっと待ってよ！　最近あたし全然いいところ無いじゃない！」

「そうか？」

「そうよ、ちゃんと最初からこの作品を読み返して！」

　くのいちは本作第二部からの自身の出来事を回想する。

① 携帯アーミーのメガネっ子からフランクフルトのなんちゃって三塁打を被弾する。

② フランクフルトにゴムをがっしりと装着するところを強に見られる。

③ 強とミルクをマタドナルドの前で追いかけたけれど、まかれる。

④ ヒッキーの世界のダイブでミルクの浄化モードを喰らい、火あぶりの拷問を受け顔の皮を剥がれ失禁。

⑤ 宿屋でレンタルしたエッチビデオのタイトルが強にバレる。

⑥ 琢磨を誤って斬ってしまい、ミルクから二度目の拷問を受ける。

⑦ みんなからメカくのいち呼ばわりされる。

⑧ ヒッキーの母親と入れ替わってチンチラ、マンチラを見学しようとしたが、期待外れに終わる。

⑨ 琢磨から初めてを奪われそうになる。

⑩ 彩子の父親の松戸先生から貰った手裏剣でこんがりと焼かれる。

「……ほら見てよ！　あたし悲惨でしょ！　どうだ、まいったか！　さぁ、同情して！」

　と必死にアピールするくのいち。半分くらいは『身から出た錆』にも見えるが。

「お嬢は物事を悪く考え過ぎだ。いい事だってあったはずだ」

「例えば？」

「水泳部の女子生徒の練習風景を俺様と楽しく見学した」

「あー、あたし何が楽しくて生きてるんだろう？」

「しょげるな。週明けの朝礼でお嬢の功績を讃えるスピーチを俺様がしてやるから」

「あたしの功績は貧血と共に忘れ去られていくのね」

　そんなボケた会話をしていると、くのいちの喉元にチョコの剣が突きつけられる。チョコがくのいちを睨みつけている。

「切腹するなら喜んで介錯するよ」

　くのいちはチョコの背後を指差す。

「あーっ、あんなところに巨大なチョコレートケーキ！」

「えっ、嘘でしょ？」

　チョコが後ろに振り向いた瞬間、チョコの剣が背後から伸びる。剣はくのいちの胸にザクっと突き刺さる。

「そんなビッグバン以前からある古い手に引っかかるわけないでしょ」

　チョコはやる時には容赦が無い。いじめの現場で昼寝していた強のズボンを脱がせ、顔に『俺は童貞だ！』と落書きをするくらいは朝飯前なのは皆の知っての通りである。