第156話 事が大袈裟にならなくて安堵する校長
取り敢えず魚池大学の附属病院に入院した彩子。彼女の自殺未遂の原因は何だったのであろうか?
「こんな使えないオッサンにマシな発明をしろと……」
とちょっとスネ気味の松戸先生。慌てて琢磨がフォローに入る。
「先生、どんな素晴らしい科学技術も悪人の手に渡ってしまっては意味がありません。そこさえ間違えなければ、先生の発明は必ず学園の人々の幸福に貢献するはずです」
「取り敢えず〜素晴らしい発明が悪の手に渡るのは阻止されたね〜」
ミルクの余計な一言が光る。
琢磨の言葉にしみじみとうなづく松戸先生。
「学園の人々の幸福か。私は娘の不幸にも気づいてやれないダメな父親だよ。娘の彩子が何故あんな事をしたのか皆目見当がつかないし。また同じ事を繰り返しやしないかと」
マッドサイエンティストが急にまともな事を言い出したので、場の雰囲気が急にシリアスになる。
「彩子ちゃんが悩んでいた様子とかなかったの?」
とチョコが尋ねる。
「ああいう年頃だからなぁ。『お父さんには髪の毛一本でも触られたくない』とか言っているし」
「あたしもああいう年頃なんだけど」
とさっき抱きつかれそうになったくのいちが言う。
「俺もああいう年頃っすよ。いきなり抱きつこうとしたりキスしたりするのは……」
「君達、落ち込んでいる私に鞭打つ様な発言は……あぁ、彩子は一体誰に似たんだか……」
強はくのいちに小声で囁く。
「余計な事は言うなよ」
くのいちは唇を殆ど動かさずに小声で返事。
「あんたって意外と大人なんだね」
そこに割井校長が入ってくる。
「久野君、剛力君、よくやってくれた。警察には事情を説明して事件性は無いとのことで済ませてもらった。あの緊急時に見事な対応だった」
「チョコが素早く対応してくれたから助かったわ。彩子ちゃんの住所もすぐに分かったし、学校にも連絡してくれたし」
チョコがそれに応える。
「くのいちが彩子の心理を読んで、彩子が自宅に居ると推理したから間に合ったんだよ」
チョコとくのいちにうなづきながら校長が言う。
「だが問題は……」
「これからどうするか、よね」
「松戸彩子君には魚池の関連病院に取り敢えず入院してもらった。まだ自殺未遂の動機は話したくないそうだ。ただ、ダイブシステムを利用する事には納得してもらった。言葉ではうまく言えないこともダイブなら伝えられるかも、と彼女は考えているようだ」
「彩子の精神世界を構築するのね。じゃああたしもダイブするわ。あんな事があったんだもん。あたしには心を開いてくれると思うわ」
「割井校長、チョコも連れて行ったらどうですか? なんていうか、チョコは彩子とくのいちの間の橋渡しがうまくやれそうなので」
と強が言う。
「あたしもチョコが一緒ならやり易いかも」
「良ければ俺も付き合うぜ」
と強。
「僕も」
と琢磨。
「私も〜」
「僭越ながら拙者も」
「松戸彩子君の心の中にどんなモンスターが潜んでいるかは計り知れない。しかしながら彼女は人見知りが激しい様だ。やはりここは税所君と久野君にお願いしたい」
うなづく一同。
暫くの沈黙の後でチョコが口を開く。
「でもさぁ、一つ言いたい事があるんだ、くのいち。私の意見がおかしいとか生意気だと思うなら怒ってくれて構わないんだけど」
「何よ、言ってごらんチョコ」
「今回のダイブは彩子ちゃんの心の内を探るのが目的になると思うんだ。でも急いで彼女の気持ちを聞き出そうとしないであげて。自分から語りたくなるのを待っててあげて欲しいの」
くのいちは反論の材料を持ち合わせていなかった。チョコは携帯アーミーのリーダー。ガーディアンデビルズ結成後瞬く間にメンバーを集め、今は二十人に及ぼうか。強とも何か余人の入り難い距離感を築いている。
ヒッキーやくう子ともプロモーションビデオ制作で打ち解けている。ミルクとの裏アカ放送での相性も良い。くのいちが自由にガーディアンデビルズの活動ができるのも彼女が連絡係を務めているからだ。
「わかったわチョコ。あなたの言う通りだと思う」
くのいちには体を張って彩子を助けたという自負はあった。だから彼女も自分には心を開いてくれるのでは、と思っていた。しかしそう簡単にはいかないかも、とチョコに見透かされている気がした。
こんがりくのいちのイラストは「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトで。




