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ガーディアンデビルズ〜学園治安維持の会〜  作者: トミロン
第3部 サイコなヒロイン、演劇部の松戸彩子(まつどさいこ)編
152/243

第152話 彩子からの謎の電話

第三部ここまでのあらすじ。 学園のいじめや暴力沙汰を取り締まるガーディアンデビルズ。校長の発案で、生徒同士の友達作りの為のマッチングアプリ活用が全校規模で促される。(大食いコスプレJKのくう子は元万引きお嬢さんの節陶子とマッチング、イケメンナンパ男の池面はアプリを開発したヒッキーとマッチングする)。ヒロインのくのいちはスピリチュアル系の松戸彩子とマッチングする。このところ大した事件も起こらずに平穏に過ごしていた一同。しかしここで物語は大きく展開し始める。

 古門先生が去った講堂で、脚本担当のヒッキーとチョコが主演の強とくう子に近寄って来る。

「強、聞いたでござるか? 拙者とチョコが書いた脚本、古門先生に褒めてもらったでござる」

「くのいちの書いた脚本がボツになって、お前達三日くらいで仕上げたんだろ? すげえな」


「内輪ネタ満載だからね。楽勝よ」

 とチョコ。

 ヒッキーも強にこう言う。

「強が校長にぶっ飛ばされるシーンを入れておけば、取り敢えず盛り上がるからどんどんいけ、とくう子に言われて……」

「あーっ、ヒッキー! あたしのせいにしてるー! あんたもノリノリで脚本書いていたじゃない!」

 とくう子。

「それは構わねえけど、俺がぶっ飛ばされるシーンで校長はやけに生き生きとしていたな」

「きっとまたお手当弾んでもらえるよ」

 とチョコ。

 ここでナレーションが入る。

「割井校長は義理堅い男であった。確かに強は後日お手当をゲットしたのであった」


 この後もしばらくは学園の治安を乱す様なイベントは起こらずに平穏な日々が続いた。しかし平穏は突然破られるものなのであった。




 通学途中のくのいち。最寄り駅から学校に向かって歩いている。彼女の携帯がLINEの着信をプルンと告げる。

「(メッセージの着信か。後でまとめて見よう)」

 彼女の携帯がまたプルンと振動する。

「(この時間にメッセージが続くなんて珍しいわね)」

 くのいちはまたもスルー。すると今度はLINE通話の呼び出しの振動が入る。


「(うざい。新興宗教の勧誘?)」

 彼女が仕方なく画面を見ると松戸彩子からである。

「(あら、彩子ちゃんからだわ。久しぶりね)」

 くのいちは携帯に応答する。

「はい、あたしよ」


「先程いただいた納豆に味噌汁に目玉焼き、美味しゅうございました」

 何の事か分からずに、取り敢えず返事をするくのいち。

「あたしはトーストにベーコン、スクランブルエッグだったよ」


「闇は光に、寒さは暖かさに変わり、盲人は目を開くのか?」

「ちょっと待って彩子ちゃん。どうかしたの?」

「……」

 彩子は無言。


 暫く考えた後、やっとそのフレーズが頭に蘇るくのいち。

「それってもしかしてジキルの『パープルスコーピオン』だよね。あたしも好きだよ、あの曲」

 彩子からの返事はない。


「もしもし彩子、聞いてる?」

 やはり返事はない。そこに自転車で通学中の強が通り掛かる。くのいちは手を挙げる。

挿絵(By みてみん)

 しかし強はくのいちの前を素通り……かと思いきや突然Uターンをして走り去ろうとする。


「こら待て、貴様!」

 くのいちは自転車に乗った強を追いかける。しかし強もスピードを上げて逃げる。くのいちは塀によじ登り、屋根伝いに跳び走る。自転車の強を先回りする形になり、屋根から飛び降り、自転車をこいでいる強の前に座って着地する。


「ごめんくのいち。今月の家賃、週末までには払うから」

「今はそれはいい。それよりこのまま駅から下り方面に向けて全力でダッシュして」

「学校と反対方向だぞ」

「全力で学校をサボる。付き合って」


 くのいちは髪飾りの手裏剣を外し真ん中あたりを押す。カチリと音がする。それを自転車をこいでいる強の尻にぷすりと刺す。

「あいたたた!」

 強とくのいちの乗る自転車はスピードアップする。

挿絵(By みてみん)

 くのいちは携帯を手にしてチョコに電話する。


「は〜い、チョコだよ。おっは〜」

「チョコ、緊急事態よ。松戸彩子の住所を至急調べて」

 くのいちの緊張感はチョコにも伝染する。

「急ぎなのね、分かった」

「あとは学校に連絡。彼女の安否を確認してもらって」

「安否って……警察とかに連絡しなくていい?」


「彼女の住所が分かったらこちらから通報する」

「他のメンバーにも連絡しとくよ。緊急事態だって」

 くのいちは通話をLINEに切り替える。

「彩子、彩子、返事して!……やっぱ出ない」

「彩子はそんなにヤバいのか?」

「あたしの勘が正しければ」


 くのいちは彩子の言葉を反芻していた。『〇〇美味しゅうございました』と家族に感謝を繰り返すフレーズ、一つ前の東京オリンピックのマラソン代表選手の遺書とおんなじだ。

 それから『闇は光に、寒さは暖かさに変わり、盲人は目を開くのか?』という言葉。聞き覚えがある。あたしの好きなバークリー音大出身のロックバンド『ジキル』の『パープルスコーピオン』という曲だ。


『……盲人は目を開くのか、死後の世界では』と歌詞は続く。流石ヒッキーのマッチングアプリ。あたしと彩子の好みの曲までマッチしている。しかし今は感心している場合じゃない。


 自転車の荷台に座っているくのいちは、全力で自転車をこいでいる強に尋ねる。

「ねえ、『パープルスコーピオン』って曲、覚えてる?」

「ジキルの曲だろ。カッコいい曲だよな。でもあいつ、あの曲を出したすぐ後にこの世を去っちまった」

「だったよね」


 くのいちは彩子のLINEメッセージを確認する。彼女の表情が蒼ざめる。

『警察には連絡しないで』

 と書かれている。


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