第151話 演劇部顧問 古門劇代
今回の演劇の制作にあたり、ヒッキーとチョコは演劇部の顧問である古門劇代先生にアドバイスを受けていた。
舞台袖から猿や熊、リス、うさぎなどの被り物をした動物キャラクター達が出てくる。
「クコリーヌ、僕達の森を守ってくれてありがとう」
「もう悪い校長先生はいないから大丈夫なのだ」
「でもクコリーヌ、校長先生を責めないで」
「どうしてなのだ? 悪い人はこらしめなきゃダメでしょ?」
「校長先生は貧血や物忘れに負けない丈夫な生徒達を育てるため、敢えてみんなに試練を与えていたんだ」
「試練?」
「そうだよ。体を動かす、夕方以降は食べ過ぎない、早く寝る、早く起きる、そうしたら自然にお腹が空くから朝ごはんを食べる、そういう生活を心がけたらいいんだ。そうすれば校長先生の『貧血光線』や『物忘れ光線』なんてへっちゃらさ」
「そうか。校長先生は私達の健康を気遣ってテストしてくれていたのね。世の中に本当の悪なんていないのね。みんないい人なのね」
「一握りの強欲な資本家以外はみんないい人達さ。さあ、みんなで輪になって踊ろう」
クコリーヌと強と校長は動物達と手を繋ぎ輪になって、
『♫うぉ〜うぉううぉ〜さぁワ〜ニ〜さんのお口〜すぐに食べるか〜ら〜』
と歌いながらぐるぐると回る。
ここでナレーション。
「こうしてクコリーヌは森の動物達と幸せに暮らしたのであった。めでたしめでたし」
クコリーヌ達とぐるぐる踊っている校長のモノローグ。
「本当は森の動物達も美少女戦士として戦いたかったのだろうな。世の中は残酷だ。私も社会の矛盾についてもう少し語りたかったのだが、中年の持久力の限界で、これ以上長いセリフは覚えられん。無念だ。生徒諸君、来週の朝礼でまた会おう!」
幕が降りる。観客の拍手。観客の中にはくのいち、琢磨がいる。くのいちが居眠りから目覚める。
「あれ、私何をしていたのかしら?」
彼女は立ち上がろうとするがよろける。
「あ、立ちくらみが」
琢磨が慌てて支える。
「くのいちさん、大丈夫ですか?」
「校長先生の物忘れ光線と貧血光線、凄い威力だったわ。流石のあたしもやられた」
「いや、演劇の内容が校長先生の朝礼のスピーチ並みだっただけという説も」
観客兼エキストラの生徒達が解散して、残っているのはガーディアンデビルズのメンバーと四十才くらいの一人の女性。演劇部顧問の古門劇代先生である。彼女は着席せず、最後方の席で立ったままずっと劇を見ていた様である。何かの主義なのであろうか。演技を終えた主役のくう子と強が古門先生に近づく。
「古門先生、今日はわざわざ見学に来ていただいてありがとうございました」
「俺たちの演劇、どうでしたか?」
古門劇代は顎をしゃくり、ちょっとスカしたポーズを取りながら答える。
「演劇部の顧問として言わせてもらうと……新鮮よね。葛藤や悩み、人間ドラマなどを排除してエンタメに焦点を絞っているのも面白いわ」
「ありがとうございまーす」
と屈託なく答えるくう子。
「一応、社会への問題提起もされているのかしら。朝礼のスピーチ問題、女性の問題、社会問題、行き過ぎた資本主義経済の問題……」
「そこを分かっていただけて嬉しいです。脚本担当の比企君と税所さん(ヒッキーとチョコ)のお陰です」
古門先生、ふとくう子の衣装を見つめる。
「ところであなたの衣装、素敵だったわね」
「ゲームキャラのコスプレ衣装なんですよ。恥ずかしい」
くう子はちょっとはにかむ。
「こんな衣装、どこで手に入るの? 自作?」
「特注品なんです。でも人気が出たらお店に並ぶかもしれません。先生も興味がおありですか?」
「お店に並んだら教えてちょうだいね」
古門先生は講堂を後にする。
ここで演劇部顧問の古門劇代先生の事を少し説明したい。魚池高校のアラフォーの音楽の教師だ。学生時代は音大だったがピアノ、声楽ともに芽が出ず、途中でアメリカの音大に留学してしまい、そこで何故かハードロックにハマってしまったらしい。ハードロックバンドのキーボード&コーラスとしては引く手あまただったそうだ。音大では演劇サークルに所属していてそこでアメリカ仕込みの演劇にも興味を抱いたらしい。
魚池高校の演劇部の部室では古門先生がいる時はBGMは絶えずハードロックが流れていた。ミルクも一度そこに見学に行った事がある。他の演劇部員はBGMを聞き流していたが、ミルクはその選曲は印象に残っている。ディープパープルの『火の玉』、モトリークルーの『麻薬密売人の歌』、レインボーの『悪魔の歌』。
「(うわ〜、この先生攻めてる〜)」
とミルクはドン引きしたものだ。その時やはり部室に居た松戸彩子もちょっとBGMを怖がっていた様子であった。しかしミルクは部室を後にする頃にはBGMの歌詞が頭にこびりついていた。
『おまえをなりたい人間にしてやろう。悪魔と一夜を過ごし、代償を支払うのだ』
英語の歌詞を思わず口ずさんで廊下を歩くミルク。魔女の血が騒いだのか。でもミルクの歌声を聞き届けても誰も理解する生徒は居なかった。外国の歌なんて日本人にとってはそんなものであろう。
演劇部顧問の古門劇代先生のイラスト、「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトにアップしました。




