第15話 強の天敵 切磋琢磨
治安維持の会の癒しキャラ、森野ミルクには彼氏がいる。校内一の秀才だが両刀使いの変態、切磋琢磨である。
チョコが退出した後の治安維持の会の部室の前。ドアには『反省会中』と書かれている。部室にはくのいちと強。くのいちが陽気に声をあげる。
「さぁて、来週の治安維持の会は?」
椅子に座っている強がそれに答える様に独白。
「みなさんこんにちは。剛力強です。そろそろ梅雨入りとなるこの季節、いかがお過ごしでしょうか? 六月は旧暦で水無月と言います。雨の降る季節なのに水無月って変ですよね。実は水無月って『水の月』っていう意味なんです。田んぼに水を引く季節なんですよね。さて次回は、
強、また顔に落書きされる
強、くのいちに罵倒される
強、拷問を受け嘔吐
強、校長の呼び出しを受ける
の四本です。来週も『治安維持の会』観て下さいね。なお、都合により今回はジャンケンはできません。
強は顔にマジックで『家賃滞納』と書かれる。
書いているのはくのいち。強は椅子に包帯でぐるぐる巻きにされ固定されている。これではジャンケンは無理。
「あんた今月の家賃、いつになったら払ってくれるの?」
「ちょっと待ってくれよ、くのいち。来月にはちゃんと働いて返すから」
「誰がそんな寝言を信じるのよ!」
くのいちはハリセンで強をピシペシと叩く。
「ああっ、痛気持ちいい!」
苦痛の快楽に喘ぐ強。
「このカス! クズ! 粗大ゴミ!」
強を罵倒するくのいち。
そこに切磋琢磨が入って来る。強と同じ二年生。身長はくのいちと同じくらいの百七十五センチ。少し長めのさらさらヘアで、髪をかき上げてキメポーズをつくるのがトレードマークのナルシスト。勉学も優秀。くせっ毛茶髪、勉強そっちのけの強とは対称的である。
琢磨の左の前腕には包帯がグルグル巻きにされており、それを自由に操って相手を縛りつけたりできる。彼は左腕の包帯の投げ方や勉学に日々切磋琢磨して魚池高校への推薦入学、そして治安維持の会のメンバーという現在の地位を手に入れている……が少し変態趣味があるのが玉に傷。
「強君、何という痛々しい姿に! あぁ、この世には神も仏も無いのだろうか?」
「お前がやったんだろうが、琢磨!」
「仕方がなかったんだよ、強君。君を縛れば君を好きにしていいと言われたんだ。僕の苦しい立場も理解してくれ」
「お前の立場がどう苦しいのかさっぱり分からん」
くのいちが切磋琢磨に指示する。
「琢磨、やっておしまい」
「治安維持の会のリーダーのご命令だ。強君、覚悟してくれ」
「俺をどうするつもりだ」
「身動きの取れない強君ってそそるね。これは一億パーセント自家発電しちゃいそうだ」
彼は椅子に縛りつけられている強に背後から抱きついてワイシャツのボタンを外していく。更に強のズボンのポケットに手を入れる。
「お、俺達は未成年だからそういうのは大きくなってからで……」
切磋琢磨は強のポケットに入れた手をモゾモゾと動かす。
「ここはまだお子様みたいだね。でも僕が大きくしてあげるよ」
と琢磨が強の耳元でささやく。
「くのいち、何とかしてくれ」
くのいちはヨダレを垂らしながら微笑んで成り行きを楽しそうに眺めて無責任に言い放つ。
「いけいけ強、ドンといけ!」
「俺、お婿にいけない体にされちゃうのか?」
そこに森野ミルクが入って来る。
「強く〜ん、くのちゃ〜ん、反省会終わった〜?」
強を攻めていた琢磨の手がピタリと止まる。
いつもおっとりモードのミルクの表情がこわばる。口調もシリアスモードになる。
「琢磨さんって私にはそういう事してくれた事ないのに強君にはオッケーなんだ」
「あ、ミルクちゃん。これはついノリで……じゃなかった。治安維持の会のリーダーの御命令で……」
「『英雄、色を好む』って言いますからね。男色も英雄のたしなみですか!」
「(ミルクって時代錯誤な面、あるよな)」
と強は思う。彼女は完璧なバイリンガルで出身はイギリスの田舎だというが詳しい事は不明。親が校長の知人らしく、そのつてで昨年魚池高校に転入してきた。現在校長宅に住んでいる。ミルクは校長の事を時々『お父さん』と呼んでいる。
転校して間もない頃、ミルクは校長を『パパ』と呼んでしまい、くのいちに『誤解を受ける』と注意され、以降は『校長先生』とか『お父さん』と呼んでいる。
まあ、校長の奥さんはキレ者の女医さんで、校長も奥さんを恐れているからミルクと校長の間に何かがあるとは思えないが……琢磨との仲は半ば校長夫妻の公認らしい……などと考えていると、切磋琢磨が取り繕う様にミルクに言う。
「僕は強君がどうしたら家賃で困る事が無くなるかを考えていたところなんです。今から彼にその方法を伝授します」
琢磨は強に耳打ちする。
「うん、うん……よし、わかった」
強は椅子に縛られたままでうなづく。
「本当にそれで大丈夫なんだな?」
「魚池高校一の秀才の僕を信じてくれ」
長めの髪をかき上げてキメポーズを取りながら自信たっぷりの琢磨。強の表情にも自信がみなぎってくる。
「くのいち、今から俺は自分の魔力値を全て注いで呪文を唱える。吠えづらかくなよ!」
「なにそれ。あんた、厨二病?」
椅子に縛られ手足の自由の利かない強は瞳を閉じて精神を集中させる。
「天にまします我らが神よ。大地をはぐくむ精霊たちよ。願わくば我に正しき裁定を執行する勇気と力を与え給え! 我しもべとなりて神のみこころに従わん!」
強の周りに魔法陣が形成され、光を放ち始める。
「よし、ここでもう一工夫」
琢磨は強の頭に大きなリボンを取り付ける。
「どうか私の心の叫びをお聞き入れ下さい!」
強はそう叫んでくのいちを『カッ!』と見つめる。
「俺を……俺をもらってくれ、くのいち!」
くのいちは強の頭に空手チョップ。
「却下」
「グヘェ!」
魔法陣は消え去り、リボンをつけた強の頭にはたんこぶ。
「必殺技がくのいちさんには通用しない! 魔力値が足りなかったのか?」
「魔力値より魅力値の問題かも」
とくのいち。そう言って、
「そういうのってもっとムードとかあるでしょ?」
と小声で呟く。




