第149話 これはただの朝礼ではないのだ
朝礼で生徒に怪光線を浴びせる悪い校長。これは現実なのか?
「貴様途中で居眠りしてエンディングだけ見てただろう! 中身が大切なのだ!」
「申し訳ありません。中身は一年前に見た話と似ていたのでつい眠ってしまいました」
「そのようなコメントは各方面から苦情が予想されるので弊社としては聞かなかった事にしておく。しかしだ」
校長は強の胸ぐらをつかむ。
「それは貴様が昨日見たテレビアニメだろう、私のスピーチの内容ではない!」
強はまたもや吹っ飛ぶ。
「あぎゃあ。最後のじゃんけんには勝ったのに……ようし、来週もまた観るぞ、エンディングだけでも……」
「ふっふっふ。貴様が私のスピーチを覚えていない理由を教えてやろう。私はスピーチの最中、必殺技『物忘れ光線』と『貧血光線』を全校生徒に浴びせていたのだ。生徒が朝礼中に貧血で倒れ、話の内容を覚えていないのはそのためだ。どうだ参ったか。わっはっはっ」
朝礼にしては何か変だ。これは現実か?
「酷い。俺たちは校長先生のお言葉を一字一句逃さずに聞こうとしているのに……」
「調子のいい事言うな!」
校長は三たび強を殴り飛ばす。
「ゲホッ、グホッ」
そろそろ吹っ飛び慣れてきた強。
そこに首から下をマントで隠したくう子が登場する。舞台脇のホワイトボードには、
『ガーディアンデビルズ演劇公開練習中』
と書いてある。
なあんだ、これは現実のお話じゃなくて、学園祭の出し物のお芝居だったのか。
「そこの悪い人、悪いことはやめるべしっ!」
「誰だ、お前は?」
「私は正義の味方の美少女戦士クコリーヌなのだ!」
「美少女戦士? 自分で言っちゃっていいのか? 三十年後には美魔女戦士になるのか? 老後の経済的保障はあるのか?」
「二十年間戦士として働き、年金受給資格を得る予定なのだっ!」
「アメリカ人かっ! ではもう一つ質問があるのだが」
「何でも訊いて、なのだ! 中高年特有の体の悩みなのか?」
「それは話せば長くなってしまうので、今度プライベートで相談に乗ってくれ、クコリーヌ。さておき、もしお前の仲間に加わりたいという人が現れたとして、そいつが美人じゃなかったらどうするのだ。はたまた少女じゃなかったら? 『あなたは美少女戦士には向いていません』と言って拒絶するのか?」
さすが校長。現実検討力は若者の追随を許さない。
「そ、その時はかぶりものでマスコットキャラになってもらうとかお祈りメールを送るとか……とにかくいい加減あなたも名前を名乗るのだ!」
「ふっふっふっ。私は悪い校長だ! 私の技を受けてみろ。必殺、貧血光線!」
光線を浴び、クコリーヌはもがき苦しむ。
「あぁ、私の血が抜かれていく……血が足りない! 人の血が欲しい! ……このまま私も鬼になって人を襲うようになってしまうのか? ようし、ここは取り敢えずそこの茶髪に刀でも持たせて岩を真っ二つに切れるよう修行させるのだ! 私もちくわを横に咥えた方がいいのか?」
「その展開は世界中の漫画、アニメファンから苦情が来るのでまずい。ほら、そこの倒れている茶髪のお前、何とかしろ」
と割井校長は強に語りかける。
「俺っすか? こう見えて俺は血の気が多い方なんで貧血光線は効きませんよ」
「ならばこれはどうだ。必殺、物忘れ光線!」
強は光線を浴びる。表情が虚ろになる。
「うわあっ! 物忘れ光線で脳みそが縮こまっていく! せっかく明日の中間テストのために一生懸命勉強したのに全部忘れてしまった。赤点をとったら校長先生のせいだ!」
強はクコリーヌに問いかける。
「……ところで母さんや、ワシは今何をしとったのかのう? そういやぁまだ朝ごはん食べさせてもらってないのじゃが」
「物忘れにも程があるのだ! ああ、もうダメだ。これじゃあそこの茶髪は介護認定を受けるしかないのだ!」
「ああ、僕の大切な思い出がどんどん失われて行く! 校長先生が奥さんのイシヨ先生から毎日精のつく食べ物を無理矢理食べさせられている事も忘れてしまった!」
「精のつく食べ物って何なのだ、そこの茶髪! せんべいや赤飯や背脂ましましラーメンか?」
『せ』のつく食べ物を必死に考えるクコリーヌ。
「いや、ニンニクスライスのソテーやまむしびんびんドリンクだよ」
暴かれたくないプライベートがさらされ、焦る校長。
「いいから早く忘れろ、強。忘れるんだーっ!」
校長の目はマジである。とても演技とは思えない。やはり全くの作り話ではないという所が人の心を打つのか。さすがチョコとヒッキーの脚本である。




