第147話 強にカラスミを贈ったのは?
彩子が元気にやっているのかを確認しに来たくのいち。一方、帰宅後にくのいちは再びおsiri ちゃんにいじられる。おsiri ちゃん、もっとやってくれ。
「心がけは立派だが、そのダジャレ、スベってんぞ」
と強。
「雨の予想をしたら『天気の子』じゃないじゃん」
とくのいち。
「すみません。あの映画見ていないんです。あらすじを教えてくれませんか?」
「えっと、昔々あるところに悪い鬼の一族が住んでいたの。主人公が外出中に家族が襲われて、妹だけは辛うじて助かったんだけと鬼にされちゃって……」
「歴史的大ヒット作品のネタバレは各方面から苦情が来る。それくらいにしておけ、くのいち」
「中学生と高校生の男女が御休憩、御宿泊のイケナイ施設に入ったのに、結局イケなかった話だったわよね?」
「それ、あらすじじゃねえだろ」
「そもそも予言や占いなんて、相手に「『当たった』と思わせちゃえばこっちのもんじゃん。明日の天気なんて『晴れ時々曇り、ところによって一時雨』って言っておけばいいのよ」
「信じる者は救われる、ですね。でも私のカサカサお肌はスクワレンクリームを塗っても救われん」
「お肌はカサカサでもそのダジャレはスベスベにスベってんぞ」
「とにかく彩子は元気なのね。安心した。じゃあ何かあったらまたLINEしてね」
「全国演劇コンクールの準備で忙しい私ですが、何とかスケジュールを調整してLINEします」
「あたし達、LINE友達だもんね」
くのいちはそう言って強と共に彩子の教室を後にする。
「結局、何でチョコは彩子のとこに顔を出せって言ったの?」
「マッチングのアフターケアだろう、きっと。お前が彩子とLINE友達で、しかも仲良さそうに話しているの見たらクラスの奴らは彼女には変な事はできないよな」
「そっか。」
強の言うことはもっともであった。しかし彩子に対する見えにくい攻撃は、実は水面下で少しずつ進行していた。
その日の夜。くのいちのマンション。
「信じる者は救われる、か。結局『好きな人から告白される』っていう予言はハズレだと思うけど、何でも『当たった』と信じれば当たっていた事になるのかなぁ。今日の強の『誕生日にカラスミが送られてきた』ってのはなんだろう。好きな人からの告白って言うにはあまりにこじつけが強過ぎるよね」
くのいちは何気なく『カラスミ』と検索する。
「えーっと、『カラスミは滋養強壮、疲労回復に効果があります。また、亜鉛を多く含むので勃起力や持続力の増強、精子数の増加が期待できます』だって!」
くのいちの携帯のAI、おsiri ちゃんが口を挟む。
「このスマホはユーザーの検索履歴を学習して、ユーザーに最もふさわしいページを表示しております」
くのいちがおsiriちゃんに喰ってかかる。
「何よそれ! まるであたしが『勃起』とか『精子』とかばかり検索しているみたいじゃない!」
「私はあくまでデータに基づいて分析しているだけです。ちなみにこの一ヶ月間にあなたが『勃起』を検索した回数は……」
「(耳を塞ぎながら)あー、あ―っ! 聞こえない、聞こえなーい!」
「久野一恵さんの携帯に『静止衛星』と入力しようとすると、『精子衛生』と変換されちゃう事もこの携帯AIは知ってまーす」
「お願い、許して。何でもするから……」
そう言って携帯を除菌スプレーで丁寧に磨き始めるくのいち。
「ありがと、くのいち。おかげであんたの手のネバネバが取れてスッキリしたわ」
「あたしの手はサラサラなの!」
「ついでに「『精子』を検索した回数も日本中の読者に公表しときますか。あなたが四六時中検索しているお蔭で『精子』が検索急上昇ワードになったわ」
「えっ、あたしが寝る暇も惜しんで『精子、精子、精子』と検索したせいで……ってそんなわけないでしょ!」
ファミコンの安っぽいファンファーレがパラリラパラリラパララパッパッパーと鳴る。
「くのいちのノリツッコミポイントがまた上がった! 今回は下ネタ絡みなので特別に二ポイント進呈するぞ。おめでとう、くのいち!」
とのナレーションが流れる。
「ノリツッコミマスターの地位を不動のものにしている、私。だけど待って。そんなエロい効果のある高級食材を匿名で誕生日に強に送る人って……」
くのいちの頭に母親の顔が浮かぶ。
「いや、そうと決まった訳じゃないけど可能性はある。あの人なら強の誕生日くらい知ってそうだし、密かにあいつの持続力増強を目論んでも不思議じゃないわ。やっぱり油断はできない。これからはあたしも強にインパクトのある誕生日プレゼントを送ろう。やっぱりマムシかなぁ」




