第146話 彩子の占いの信憑性
マッチングアプリで友達となったくのいちと松戸彩子。チョコの計らいで二人は彩子の教室で顔を合わせる。……でもやっぱり彩子ってちょっとサイコだ。
「えっ、今日はお前の誕生日なのか?」
「そうじゃないけど、あんたあたしに何か秘密にしてない?」
「ねえよ別に」
「どんな小さな事でもいいから話して」
「なんだよそれ。う〜ん……ああ、そういえば、この前俺の家に小包みが届いた」
「それって秘密でもなんでもないよね」
「そうだよな。でも俺カラスミって初めて食った」
「ふ〜ん。……ってカラスミ?」
「お前は食べた事あるのか?」
「多分ずっと前一、二回はあると思うけど。高級食材よね」
「そうなのか?」
「そんなものを送ってくれる人って強の親戚にいるの?」
「俺の親族は全員貧乏、というのを前提にした物言いだな。とにかく送り主に名前の記載は無かった」
「送り主不明の食べ物なんか食べちゃダメでしょ! 毒が入っていたらどうするの!」
「いや、小包みが届いた日はちょうど俺の誕生日だったから、サンタさんからのプレゼントかなと思って。おまけにお祝いのメッセージも入っていた。試しにくう子ちゃんにひとかけらあげたら、喜んで尻尾を振って食べてくれたぞ。彼女は運良く存命中だ」
犬のコスプレをして尻尾を振りながら嬉しそうにからすみを食べるくう子、の回想シーンが頭に浮かぶ強。
くう子はヒッキーのユーキューブビデオに出演した際、からすみ入りおにぎりの魅力にすっぽりハマってしまったのだ。量を食べる女が質にまでこだわるとエンゲル係数がヤバい事になりそうである。
「あんたの誕生日にサンタさんからからすみのプレゼント? サンタさんがあんたの誕生日を知っているはずないでしょ! っていうかクリスマスでもないのに不自然よ」
「お前はサンタさんの存在を信じないのか?」
「あんたばかぁ?」
「たった一人のサンタさんが一晩で世界中の子供にプレゼントを配る。それは物理的にも不可能だって事くらい俺にも分かる。でも俺達の周りにはサンタさんの役目を果たしてくれる人が必ずいるんだよ。それは恋人かもしれないし、親やきょうだいかもしれない。教会の日曜学校の先生かもしれないし、ハロウィンでいつもキャンディの代わりにケーキをくれる隣のお婆さんかもしれない」
「何、その誰かの受け売りみたいなセリフ?」
「……ってミルクが言ってたぞ」
そんな雑談をしている内に、強とくのいちは松戸彩子のいる二年四組の教室に到着する。時間はちょうど昼休み。ムンクの『叫び』がプリントされたレインコートを着た彩子がクラスメートの女子達と一緒に過ごしている。彼女は手回し式の携帯充電器を一生懸命グルグル回して、クラスメートの携帯の充電をしている。机の上には水晶玉が置かれている。
「ガーディアンデビルズだ。入るぞ」
強とくのいちが教室に入ると、周りに居た生徒達は背筋を伸ばして着席する。強は昼休みの居残りで教室に居た教師に軽く挨拶をする。
「みんなリラックスして。取って食べたりしないから」
「する」
「する」
「する」
という心の声が教室中にこだまする。
くのいちが松戸彩子に近づく。
「こないだはショッピングモールからLINEしてくれてありがとね。ところで何してるの?」
「私が何故こんな格好をしているかお分かりですか?」
「う〜ん……ムンクの『叫び』がプリントされたレインコートに水晶玉、手回しの携帯充電器よね。……わかった! あなたメンタルヘルスに問題があるのね!」
「ズバッと本質を突かないで下さい。今私は自分を戒めているのです」
「(拳の関節をポキポキと鳴らしながら) 戒め、手伝ってあげようか?」
「死者にムチを打つタイプですね、あなた」
「そうかも」
「ここは『そんなつもりじゃ』くらい言っとけ、くのいち」
と強が見かねてフォローする。
「私は昨日『明日は雨が降る』と予言していました。自分がそれを確信している事を示すため、今日はレインコートを着て登校したのです。ところがどうでしょう。待てど暮らせど一滴の雨も降らない」
「昨日の天気予報だと『明日は晴れ』ってなってたじゃん」
とクラスメートが言う。
「現代科学に基づいた情報は信用できません。私が信じるのは水晶玉のお告げのみです」
「それで、どうして携帯の充電器をグルグル回してるの?」
「私は「『天気の子』になる事に失敗しました。だからせめてものお詫びにみんなの携帯を充電して差し上げているのです」
「何でそうなるんだ?」
「せめて『電気の子』になろうと」




